Last Updated on 2025年1月13日 by 渋田貴正

事業目的の意味

会社の設立登記を行う際には、事業目的を登記します。例えば飲食店をやろうとするなら、「飲食店の経営」といった形です。

それでは、なぜこのような目的を定めて登記するのでしょうか?目的のような縛りをなくして、よいモノやサービスを販売して、世の中に貢献したほうが良いのではないかという気がします。会社の目的を定款に定めて、登記する理由としては、民法に以下のような定めがあります。

民法 第34条
法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。

この定めを元に、会社を始め、各種法人はその目的を定款に記載して、登記をすることになっています。これにより、出資者や関係者に「会社の活動範囲」を明確に伝えることができます。

事業目的の範囲外の行為をすると違法なのか?

それでは、事業目的の範囲外の営業を行うとどうなるのでしょうか?例えば、目的に飲食店の経営の旨が記載されていないIT会社が飲食店の経営を行ったらどうなるのでしょうか?

上記のような民法の規定が存在している理由は、株主などの出資者が、会社の事業活動の範囲を確認することで、お金を出す意思決定の助けになったり、出資した後も、事業活動が予測できることでリスクを計算しやすくしたりするためです。

それでは、実際に事業目的外の活動をして、出資者が損害を被った場合はどうなるのでしょうか?この場合も、事業目的は定款に明記された内容以外にも、その目的を達成するために直接的、間接的に必要な活動についても含んだものであるという解釈のもと、事業目的の不記載を理由に会社が損害賠償するといったことにはならないでしょう。

たとえば、先の例でいえば、IT会社が自社サービスのテストのために飲食店をオープンしたなどの理由付けなどがあれば十分です。半ばこじつけのように思えるものでも、理由がはっきりしていれば問題ないということです。

実際、事業目的の最後には、「上記各号に附帯する一切の業務」ということで、ほぼ全ての業務を行えるように記載するのが一般的です。

逆に事業目的を書きすぎると、何をやっている会社なのか伝わりにくいこともあり、金融機関に口座開設のためなどに提出した際に余計な疑義を生んでしまう可能性もあります。可能な限り事業目的はコンパクト(多くても15個程度)にまとめることをオススメしています。

事業目的に記載していないとできない業務もある

このように、事業目的の解釈は広いので、目的の範囲外の行為も問題ないというのが結論です。(というより、解釈が広いので、そもそも目的の範囲外ということ自体が成り立たないといってもよいでしょう。)

しかし、事業目的に記載していないとできない業務も存在します。それが許認可が関係する業務です。例えば、有料職業紹介事業や労働者派遣事業では、これらの内容が目的に含まれていないと、許可申請が受理されません。もし、これらの内容が目的に含まれていなければ、目的変更の登記手続きが必要となります。

一例として、以下のような事業では、事業目的に特定の内容が含まれている必要があります。ただし、必ず例に挙げたような内容での記載が必要とも限りませんので、審査をする管轄の機関に確認を取っておくとよいでしょう。

許認可の種類 事業目的の記載例 審査機関
労働者派遣事業 労働者派遣事業 都道府県労働局
有料職業紹介事業 有料職業紹介事業 都道府県労働局
古物商 古物営業法に基づく古物商 公安委員会
飲食店の経営 飲食店の経営 保健所
建設業 建設業、土木建築工事 国土交通省または都道府県知事
宅地建物取引業 不動産の売買、賃貸、管理及びそれらの仲介 宅地建物取引業者免許権者(都道府県知事等)
一般貨物自動車運送事業 一般貨物自動車運送事業 運輸局
薬局の経営 薬局の経営 厚生労働省(都道府県知事)
介護事業 介護保険法に基づく居宅サービス事業 厚生労働省または市町村

許認可が必要な事業を行う可能性があるのであれば、会社設立の段階で、それらの内容を目的に盛り込んでおきましょう。後で、定款を変えるとなると余計に費用が掛かってしまいます。(事業目的の変更には、最低でも登録免許税3万円は必要です。)