Last Updated on 2025年1月25日 by 渋田貴正

株式会社の現物出資では原則として検査役が必要

株式会社が増資を行う方法には、お金を振り込んで株式を取得する「金銭出資」と、土地や建物、有価証券、特許などのモノや権利を提供する「現物出資」があります。現物出資とは、金銭ではなく、土地や建物、機械設備、特許権、有価証券などのモノや権利を会社に譲渡し、その対価として株式を交付する仕組みです。この方法は、キャッシュがなくても資本金を増加できる手段となりますが、価額の適正性が問題となるため、法律上慎重な運用が求められます。

株式会社では、原則として検査役を選任し、現物出資の価額が妥当であるかを調査する義務があります。この仕組みは、株主や会社の利益を保護するために設けられています。

しかしながら、日本の会社法には例外規定が設けられており、一定の条件を満たす場合には検査役の選任が不要とされています。特に中小企業にとっては、この例外規定を活用することで、現物出資による増資にかかる手間や費用を抑えることが可能です。

ちなみに、合同会社であれば現物出資の場合に検査役の選任は、その金額やモノの種類に関わらず不要です。

検査役の調査が不要なケース

検査役の調査が不要なケースは、以下の5つのパターンがあります。

引受人に割り当てる株式の総数が発行済み株式総数の10分の1を超えない場合 例えば、100株発行済みの会社が増資する場合で、新規発行する株式が10株までであれば、検査役の調査は不要です。会社設立時の検査役の調査不要の要件にはない、会社設立後特有の条件です。
現物出資財産の価額の総額が500万円を超えない場合 現物出資の財産の価額として会社で計算した額が、一回の増資の決議あたりで500万円以下であれば検査役による調査が不要となります。中小企業での現物出資では、実務上よく当てはまる条件です。
現物出資財産が有価証券であり、市場価格がある場合 上場株式などを現物出資するケースが考えられます。
現物出資財産について、弁護士や不動産鑑定士による証明を受けた場合 このケースでは費用が掛かるので、中小企業ではあまり実例のない方法です。
現物出資財産がその会社への金銭債権であり、その金銭債権の価額が負債の帳簿価額を超えない場合 デット・エクイティ・スワップのケースを想定しています。

検査役を選任する場合、手続きや費用が増えるため、企業にとって大きな負担となります。また、検査役の調査結果によっては、現物出資の価額が修正される場合もあり、出資者や会社の計画に影響を与えることがあります。実務的には、検査役を選任するような現物出資は特に中小企業においてはまず行われません。現物出資を行う場合も、検査役を選任しなくてもよいように例外規定を活用することになります。

現物出資は、資産を有効活用して会社の成長を支える重要な手段です。しかし、その価額の適正性を確認するために、検査役の選任が必要となる場合があるため、法律のルールを正確に理解しておくことが求められます。特に中小企業では、例外規定をうまく活用することで、増資手続きの効率化が可能です。当事務所では、検査役の選任不要の現物出資手続きについて、登記や税務の両面からサポートしています。お気軽にご相談ください!