Last Updated on 2025年1月26日 by 渋田貴正

デット・エクイティ・スワップとは?

現物出資といえば、モノの出資というイメージがありますが、会社への貸付金を出資することも可能です。会社から見れば借りたお金の返済義務を免除してもらう代わりに株式や出資持分を交付するということになります。

「デット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap)」という言葉を聞くと難しく聞こえるかもしれませんが、実はその仕組みはシンプルです。日本語に訳せば「債務と資本の交換」。会社が抱える債務を現物出資として資本金に振り替える手法を指します。一般的な現物出資では、モノや資産が出資対象になりますが、デット・エクイティ・スワップでは、会社への貸付金や未払い金(会社の負債)が出資対象となります。

会社側にとっては、借りたお金の返済義務がなくなり、代わりに新たな株式や出資持分を発行することとなります。これにより、見かけ上かもしれませんが財務体質を改善しつつ、自己資本比率などの経営指標の改善を図ることが可能です。

デット・エクイティ・スワップの中小企業での活用例

多くの中小企業では、社長が会社の経費などを立替払いしたあと精算せずにそのまま残っているということがあります。その結果、会社の負債の部に、「未払金」(会社によっては「借入金」)に多額の社長への債務が残っていることがあります。この債務を会社から回収する代わりに、新たに株式を発行して、その出資金の払い込みを行う代わりに会社の社長への債務を免除するということです。もちろん社長以外の人や会社への債務でもデット・エクイティ・スワップの対象にできます。

例えば、経営者が会社に対して1,000万円の貸付金(会社側では「負債」)を保有している場合、デット・エクイティ・スワップを活用することで、会社への貸付金(会社の決算書上は「役員借入金」など)を資本金に振り替えます。この場合、負債が1,000万円減って、純資産が1,000万円増加しますので、財務状況を健全化することが可能です。この方法は経営者以外の債権者についても適用可能であり、企業再建の有効な手段となります。

ちなみに、現物出資のときに話題になる検査役による調査については、デット・エクイティ・スワップの場合は不要となります。「現物出資財産がその会社への金銭債権であり、その金銭債権の価額が負債の帳簿価額を超えない場合」には検査役の調査不要と定められているからです。スワップする債務の金額が500万円のラインを超えていたとしても検査役の調査は不要です。

デット・エクイティ・スワップと税務

現物出資の価額は、原則として時価で行うことが基本ですが、そもそも社長が会社に対して貸し付けた(未精算の)お金については額面通りの時価はありません。もし、会社に対して社長が未精算のまま残してある債権(会社からすれば債務)が1,000万円あったとして、その1,000万円の会社に対する債権を1,000万円で購入してくれる人がいるかといえば、まずいないでしょう。社長への債務に額面通りの価値があるかといえば、そうではないということです。

それでは、デット・エクイティ・スワップで1,000万円の価値がない債務を額面通り1,000万円で現物出資して、資本金に振り替えたとしたら、価値のない資本金が増えてしまうということになります。

この点、本来であれば時価で資本金に振り替えて、足りない分は社長が債務を免除したということで会社にとっては収益になるはずです。しかし、時価の算定が困難なことや、社長にとってはいつか返してもらうつもりといえば、その額面通りの価値があるということで、実務上は、額面通りで資本金や資本準備金に振り替えることが行われています。

デット・エクイティ・スワップと登記

デット・エクイティ・スワップを行った場合は、増資の登記が必要となります。(合同会社の場合は不要となるケースもあります。)株主総会なども通常通り行いますが、添付書類として、「会計帳簿で弁済期が分かるもの」が必要となります。このあたりは、日頃会社の会計を見ている税理士や経理の協力が必要となってくる部分です。

当事務所では、デット・エクイティ・スワップによる増資の登記はもちろんのこと、税務の観点からもデット・エクイティ・スワップの可能性や、そもそも行うべきなのかといったことを総合的にアドバイスしています。デット・エクイティ・スワップは、経営者の貸付金を効率的に資本化する手法であり、中小企業の再建や財務改善において強力なツールとなります。ただし、法的および税務的な観点で慎重な検討が必要です。当事務所では、増資の登記手続きから税務のアドバイスまで、トータルサポートを提供しております。会社の財務改善にお悩みの際は、ぜひ一度ご相談ください!