Last Updated on 2025年1月30日 by 渋田貴正

清算結了した会社が抵当権者の場合

相続登記を行った際に、古い抵当権が残っていると、合わせて抵当権の抹消登記を依頼されることがあります。不動産を相続した際、登記簿を確認すると、何十年も前に設定された抵当権(不動産を担保にした借金の証拠)がそのまま残っていることがあります。本来であれば借入金の返済が終われば抵当権の抹消登記がされるはずですが、事情によってそのままになっていることも珍しくありません。

特に実家を相続した場合に、すでに消滅しているはずの抵当権がそのまま残っていて、相続登記の際に気づくといったこともあります。昔の抵当権だと、すでに会社が合併で消滅しているケースや、破産などにより清算が終わっているケースがあります。

合併にしても清算にしても、すでにこの世にない会社が抵当権者の場合の抵当権の抹消手続きは少々面倒です。

抵当権の抹消には抵当権者の協力が必要です。通常、抵当権者である会社が存続していれば、その会社から「抵当権解除証書」や「登記識別情報(旧:登記済証)」を発行してもらい、所有者が抹消登記を行うことができます。しかし、すでに清算結了している会社が抵当権者になっている場合は、以下のような流れで手続きを進めることになります。

1. まずは会社の「閉鎖事項全部証明書」を取得する

清算済みの会社の状況を確認するためには、法務局で「閉鎖事項全部証明書」(解散や清算結了した会社の登記情報が記録された証明書)を取得します。これにより、誰が清算人として会社の処理を行ったのかを確認できます。

そして、清算人が分かれば、その清算人に連絡を取って抵当権の抹消に協力してもらう段取りになります。清算人個人の印鑑証明書が必要となりますので、そのあたりもやり取りする必要があります。清算人(会社の解散手続きを行った責任者)が判明したら、次のステップへ進みます。

2. 清算人に連絡し、抹消登記の協力を依頼する

清算人は、会社の解散手続きを担当した人物で、元代表取締役や弁護士が就任していることが多いです。清算人に連絡を取り、抵当権の抹消に必要な書類(抹消登記申請書、委任状、清算人の印鑑証明書など)を用意してもらうよう依頼します。

その会社の代表取締役がそのまま清算人に就任するケースもありますが、借入金などの負債が残っていれば通常は弁護士が清算人として就任します。清算人はその会社の閉鎖事項証明書で確認できますので、清算済みの会社が抵当権者の場合は、まずは閉鎖事項全部証明書を取得して清算人を確認する必要があります。(大きな会社の倒産であれば、インターネットで検索すれば清算人である弁護士を確認できることもあります。)

清算人が弁護士であれば、登記手続きに慣れていることが多いため、スムーズに対応してもらえるケースが多いです。ただし、会社の規模が大きかった場合は、弁護士事務所が現在も対応可能かどうか確認が必要です。

清算人も死亡している場合

ただし、あまりにも抵当権が設定されたのが昔過ぎて、清算人がすでに死亡しているケースもあります。こうなると、閉鎖事項証明書の清算人に対して印鑑証明書を受領することができなくなります。
このような場合、次のような対応が求められます。

1. 裁判所に「新たな清算人の選任」を申立てる
清算結了した会社は通常、すでに法的な主体として存在していません。しかし、裁判所に申立てを行い、新たな清算人を選任することで、抵当権の抹消手続きを進めることが可能になります。
この手続きは煩雑で時間がかかるため、司法書士や弁護士に相談するのが得策です。

2. 清算結了の登記自体を抹消し、手続きをやり直す
場合によっては、清算結了の登記を抹消し、会社を「存続」させる手続きを行ったうえで、新たな清算人を選任するという方法もあります。この方法はさらに手間がかかりますが、どうしても抵当権を抹消しなければならない場合には選択肢のひとつです。

いずれにしても、抵当権が残っている不動産を相続した場合で、すでに抵当権が消滅しているのであれば、相続登記のタイミングで同時に抹消手続きも取ったほうがよいでしょう。「昔の抵当権だし、もう関係ないのでは?」と考える方もいますが、放置すると以下のようなリスクが生じます。
✅ 売却時に問題が発生
不動産を売却しようとしたときに、買主が金融機関からローンを組もうとすると、**「登記簿に抵当権が残っている不動産は融資できない」**と判断されることがあります。
✅ 担保としての利用ができない
不動産を担保にして資金を調達しようとしても、金融機関は「登記簿上の抵当権が抹消されていない」として、担保評価を下げることがあります。
✅ 相続人間のトラブルの原因になる
相続した不動産を兄弟姉妹で共有する場合、「不要な抵当権の処理をどうするか」でトラブルになることもあります。
そのため、相続登記と同時に抵当権の抹消も済ませるのがベストです。
抵当権が残った不動産を相続したといった場合は、司法書士に相談することをオススメします。
こうしたことは抵当権だけではなく、根抵当権など他の権利でも同様です。

当事務所でも、相続登記と抵当権抹消の登記を合わせてご依頼いただくことが数多くあります。身に覚えのない抵当権が残っている不動産を相続したといったときは、ぜひ当事務所にご相談ください。抵当権の抹消登記はもちろんのこと、清算人とのやり取りも相続人様に代わって行います。