Last Updated on 2025年2月3日 by 渋田貴正

熟慮期間中の相続財産の処分

相続放棄は、民法915条に定められた熟慮期間中に行わなければいけません。熟慮期間は原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内ですが、例えば死後に多額の債務の存在が判明したような場合には起算点を繰り下げることも認められます。

しかし、実際には相続財産に債務がないと思い込み、通常の相続手続き(例えば、銀行預金の解約や相続登記)を進めた後に債務の存在が判明することもあります。その場合でも、熟慮期間の起算点を繰り下げて相続放棄をすることは可能なのでしょうか?

民法では、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは単純承認したものとみなす旨が規定されています。ここで重要になるのは、どのようなことが「相続財産の処分」に該当するかということです。

主に3つのケースを考えてみます。

ケース1 葬儀費用等を相続財産から支払った後

葬儀については、債務の有無にかかわらず、遺族として行うべきものであり、その費用を被相続人の遺産から支出することは当然といえます。そのため、葬儀費用の支払いを遺産から行うことは、「相続財産の処分」には該当しません。そのため、葬儀費用の支払い後も相続放棄は可能です。

葬儀費用のほかにも、仏壇や墓石購入費用、生前の医療費を被相続人の財産から支払うことなども「相続財産の処分」には該当しない取り扱いです。

ケース2 遺産分割協議を行った後

遺産分割協議は、まさに相続財産の処分そのものであり、遺産分割協議後は相続放棄は原則としてできません。ただし、遺産分割協議後に相続債務の返済の請求を受けた場合で、その請求があれば遺産分割協議をせずに相続放棄をしていたようなケースでは、遺産分割協議を無効にして相続放棄が認められる可能性があります。

ケース3 別の債務を支払った後

熟慮期間中に被相続人が抱えていた一部の債務を支払ったケースは、まさに「相続財産の処分」に該当して、その時点で単純承認したものとみなされます。もちろん相続人が個人的に返済することは相続財産の処分にはなりませんが、遺産から一部の債権者に支払った時点で、単純承認したものとみなされます。

熟慮期間中は、相続債権者から支払いの請求を受けても拒絶することができますので、あえて被相続人の支払ったとなれば単純承認したものと扱われても仕方ないということです。

以上のポイントを踏まえ、熟慮期間中に絶対に避けるべき行動を整理します。

銀行口座の解約・預金の引き出し → 単純承認になる可能性が高い。
不動産の処分や名義変更 → 相続財産の処分とみなされる。
債務の一部返済 → たとえ一部でも支払うと相続放棄ができなくなることがある。
葬儀費用の支払いはOK

いずれにしても、借金を抱えていそうな被相続人については、葬儀関係の支払いを除いて、被相続人のための支払いは慎重に行う必要があります。支払ったがために、別の債権者が大きな金額の請求をしても相続放棄できないということにもなりかねません。

相続放棄すべきかどうかお悩みの場合は、当事務所までお気軽にご相談ください。