Last Updated on 2025年2月4日 by 渋田貴正

事実上の相続放棄

相続放棄は、家庭裁判所で行う手続きです。相続放棄を行うことで、その相続人は初めから相続人ではなかったもの、つまりその相続について全く無関係なものとして扱われます。

しかし、相続放棄には3か月の熟慮期間があり、それを超えてしまうと相続放棄ができなくなります。そんなときは、相続放棄の手続きによらず、事実上の相続の放棄を行うことで、相続人間では相続放棄と同じような扱いにすることになります。しかし、「事実上の相続放棄」にはリスクや注意点があるため、正しく理解しておくことが重要です。

事実上の相続の放棄の方法

熟慮期間の超過で相続放棄の機会を逃してしまった場合、以下のような方法で相続分を放棄することが可能です。

1)遺産分割協議において、自らの相続分がない旨の遺産分割協議書を作成する

相続人全員で遺産分割協議を行い、「自らの相続分を受け取らない」 という内容の遺産分割協議書を作成する方法です。これにより、法定相続分に基づく遺産の取得を放棄することができます。

2)生前に相続分以上の特別受益を受けたとして、相続分を取得しない

被相続人の生前に多額の金銭的援助(例えば住宅購入資金や事業資金など)を受けていた場合、「すでに相続分以上の特別受益を受けた」と主張し、相続財産の分配を辞退する方法です。

3)相続分の譲渡または放棄する

相続人は、自分の相続分を他の相続人や第三者に譲渡 することができます。また、相続分を放棄することで、自身の取り分を放棄することも可能です。

これらは相続人間の同意や、自らの意思一つで決定できるので、家庭裁判所で行う相続放棄よりも手続きとしては簡単です。
このような方法があれば、熟慮期間中であったとしても、わざわざ家庭裁判所で相続放棄せずに、これらの方法をとればよいように思えます。しかし、このような方法があるにもかかわらず、法律上の相続放棄をすることの理由も存在します。

わざわざ相続放棄する理由は2つ

手軽に事実上の相続放棄ができるにもかかわらず、やらない理由としては、主に2つが考えられます。

まず一つは、債務は放棄できないということです。遺産分割協議で遺産を取得しない旨の協議を行ったり、他者に相続分を譲渡したりしたとしても、その子とは被相続人の債権者には主張できないのです。被相続人に借金があれば、いくら相続人間で自分が遺産を相続しないことが確定していたとしても、債権者にはそのような内部事情は関係なく、相続人全員に対して返済を請求できるということです。もし事実上の相続放棄を行った相続人に対して返済の請求が言った場合には、他の相続人との間で解決するということになります。

家庭裁判所で相続放棄をすれば、法律的に相続人ではなくなるので、被相続人の債権者も、相続放棄した者には返済を請求できなくなります。被相続人に債務がある、またはあるかもしれないというケースでは、相続に関わりたくないなら、手間をかけてでも家庭裁判所で相続放棄を行うべきです。

もう一つは、家庭裁判所で相続放棄をするなら他の相続人と関わらなくてよいということです。遺産分割協議にしても、特別受益にしても、相続分の譲渡にしても、何らかの形で他の相続人とのやり取りが発生します。しかし、家庭裁判所で相続放棄をする場合は、自分だけで手続きが完結します。そもそも、ほかの相続人とやり取りすらしたくないという場合には、家庭裁判所での相続放棄をする必要があります。

要点をまとめると以下のようになります。

方法 借金の免除 他の相続人との合意 手続きの手間
事実上の相続放棄 ✖(借金の支払い義務あり) 必要(遺産分割協議が必要) 比較的簡単
法的な相続放棄 ◎(借金の支払い義務なし) 不要(単独で可能) 家庭裁判所での手続きが必要

相続放棄には、「事実上の相続放棄」と「家庭裁判所での法的な相続放棄」があります。それぞれの特徴を理解し、状況に応じて適切な方法を選択しましょう。

借金がある場合 → 家庭裁判所で相続放棄
相続人と関わりたくない場合 → 家庭裁判所で相続放棄
相続財産がプラスのみで、相続人間で合意できる場合 → 事実上の相続放棄も検討可

相続は一生に何度も経験するものではありません。トラブルを避け、最適な選択をするために、早めに専門家に相談することをおすすめします。