Last Updated on 2025年2月18日 by 渋田貴正

法定単純承認とは?

相続が発生した時に、相続人がとることができる方法は以下の3つです。

  1. 単純承認(すべての財産と負債を相続する)
  2. 限定承認(プラスの財産の範囲内で負債も相続する)
  3. 相続放棄(財産も負債も一切引き継がない)

限定承認相続放棄は家庭裁判所に申し立てを行わなければならず、何もアクションを起こさなければ、単純承認したことになります。

しかし、積極的に限定承認相続放棄の申し立てを行わなくても単純承認したものとみなされるケースがあります。それが法定単純承認です。

単純承認したものとみなされるケースとして、民法第921条に、以下の3つのケースが定められています。

ケース 概要 具体例
相続財産を処分した場合 相続財産の全部または一部を処分すると単純承認となる(保存行為や一定の賃貸を除く) ・遺産を勝手に売却
・預貯金を引き出して使用
・不動産を貸し出す
3か月の熟慮期間が経過した場合 相続放棄限定承認を行わず3か月経過すると単純承認となる ・被相続人の死亡を知ってから3か月が経過
代襲相続人が相続人になったと知ってから3か月が経過
相続財産を隠匿・消費した場合 相続財産を隠したり勝手に使ったりすると、相続放棄限定承認をしても単純承認となる ・相続財産を意図的に目録に記載しない
・現金や貴金属を個人で使用
・他の相続人に隠していた財産が発覚

上記の場合は、限定承認又は相続の放棄をした後でも単純承認したものとみなされます。(ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした場合は、単純承認したものとはみなされません。)

法定単純承認事由それぞれの注意点

2)の熟慮期間を過ぎれば単純承認になるというのは分かりやすいと思います。熟慮期間の起算点には注意しておきましょう。

1)は、例えば遺産分割協議を行ったり、相続債務を支払ったりしたケースが想定されます。詳しくは、相続財産を消費した後の相続放棄もご覧ください。ちなみに、保存行為や一定の賃貸は「処分」に該当しないため、これらの行為をした後でも相続放棄限定承認は可能となります。保存行為とは、「財産の価値を保存したり、現状を維持する行為」です。例えば家を相続した場合で内部の清掃を行うことや必要に応じて修繕を行うこと、預金について金融機関に相続があった旨を通知して被相続人の口座を凍結することなどが保存行為に該当します。いくら古い家でも取り壊しを行えば保存行為を超えた処分行為に該当します。

また、一定の賃貸とは、以下の期間の賃貸をいいます。この期間内の賃貸であれば処分行為に該当せず、単純承認したものとはみなされません。

樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
上記以外の土地の賃貸借 5年
建物の賃貸借 3年
動産の賃貸借 6か月

3)は、相続財産を隠したり、消費したりした場合には、単純承認したものとみなすということです。相続放棄すれば初めから相続人でなかったものとみなされますので相続財産を消費することはもちろんできませんし、限定承認でも家庭裁判所とのやり取りの中で相続手続きを進めていくことになります。相続放棄するにしても限定承認するにしても、相続財産に手を付ければ相続放棄限定承認をする意思を放棄したとみなされるわけです。もし、相続放棄後に、相続財産を消費してしまった場合はこちらもご覧ください。

法定単純承認のよくある疑問

Q1. 相続放棄をするつもりだったのに、気づいたら3か月が過ぎてしまった!どうすればいい?

家庭裁判所に「熟慮期間の延長」を申し立てることで、3か月を延ばせる場合があります。ただし、認められるケースは限定的です。気づいた時点で早急に司法書士などの専門家に相談しましょう。

Q2. 相続財産の一部を使ってしまったが、相続放棄したい!

財産を処分した場合、原則として相続放棄は認められません。ただし、「詐欺や脅迫による処分」であった場合や、「相続財産とは知らなかった場合」など、例外的に認められるケースもあります。

Q3. 限定承認相続放棄、どちらを選ぶべき?

  • 借金がどれくらいあるかわからない場合 → 限定承認
  • 借金が明らかに多い場合 → 相続放棄

限定承認は手続きが複雑なため、実務上あまり利用されていませんが、財産と負債の状況によって適切な選択をしましょう。

法定単純承認は「知らない間に相続を承認していた!」というケースが多く、後からトラブルになることも少なくありません。

  • 3か月以内に相続放棄限定承認の手続きを行う
  • 相続財産にはむやみに手を付けない
  • 判断が難しい場合は弁護士や司法書士に相談する

相続は一生に何度も経験するものではないため、少しでも不安がある場合は専門家に相談することをおすすめします。