Last Updated on 2025年4月3日 by 渋田貴正

「資本金は多いほうが信用力がある」と思われがちですが、あえて資本金を1億円以下に設定することで、さまざまな税務上のメリットを受けられることをご存知でしょうか?

実際、上場企業で「減資」を行うというニュースが流れることがありますが、これは節税の観点から意図的に資本金を引き下げて、中小法人向けの優遇措置を享受する目的である場合もあります。

資本金「1億円の壁」:中小法人としてのメリット

資本金が1億円以下の法人は、税務上「中小法人」として扱われ、以下のような優遇措置を受けられます。

優遇内容 詳細
① 軽減税率の適用 年間所得800万円以下の部分について、法人税率が15%に軽減(通常は23.2%)されます。法人住民税の計算にも影響があり、結果的に納税額が大きく変わることがあります。
② 欠損金の繰戻還付 青色申告を行っている中小法人は、当期赤字を前期黒字と相殺して、法人税の還付を受けることができます。
③ 交際費の損金算入 年間800万円以下の交際費を法人税の計算上、全額損金に算入できます(中小法人以外は原則不可)。
④ 少額資産の一括償却 取得価額30万円未満の固定資産を年間300万円まで、取得年度に全額費用処理(損金算入)可能です。
⑤ 繰越欠損金の全額控除 赤字を最長10年間繰り越して黒字と相殺可能。中小法人以外では黒字の50%までしか控除できません。
⑥ 外形標準課税の適用除外 資本金1億円超の法人に課される、赤字でもかかる「資本割・付加価値割」が、中小法人では免除されます。
資本金「3,000万円の壁」:中小法人としての追加メリット

さらに、資本金が3,000万円以下であれば、以下の追加優遇措置を受けられます。

優遇内容 詳細
⑦ 特別償却・税額控除 一定の設備投資について、取得年度に一括で減価償却できる「特別償却」の対象となります。さらに、資本金3,000万円以下の中小法人は、特別償却に代えて「税額控除」(取得金額の一定割合を法人税から直接控除)を選択することも可能です。

なお、この税額控除の制度は法改正により見直されることも多いため、導入予定の設備がある場合は顧問税理士への事前相談がおすすめです。

資本金「1,000万円の壁」:会社設立時に注意したい2つの税金

会社設立時、資本金が1,000万円を超えると、次のような注意点があります。

項目 資本金1,000万円以下 資本金1,000万円超
法人住民税の均等割(※) 年額7万円 年額18万円
消費税の納税義務 設立1期目・2期目は原則免除 設立初年度から納税義務が発生

※均等割額は東京都23区を例にしていますが、全国の多くの自治体でも同様の水準です。
※判定は「資本金+資本準備金(合同会社では資本剰余金)」の合計で行われます。

2023年10月に始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)では、適格請求書発行事業者(インボイス登録事業者)として登録すると、資本金の額に関係なく消費税の課税事業者(納税義務者)になります。

つまり、たとえ資本金が1,000万円以下であっても、インボイス登録をしている場合は消費税の免税事業者とはなれません。

とはいえ、創業初期の段階では「取引先が免税事業者でも問題ない」と判断できる場合もあります。そうした場合に備えて、インボイス登録の選択肢を残す意味でも、資本金を1,000万円以下に設定しておくことには依然としてメリットがあります。
このように、資本金1,000万円というラインは、法人住民税・消費税・インボイス制度における実務対応を左右する大きな分かれ目となります。

2024年以降の改正・注意点

近年の税制改正では、「中小企業向けの特例」に対する見直しが段階的に進められており、今後も制度が変更される可能性があります。特に、「交際費の損金算入」や「繰越欠損金控除」については、政治的な議論の対象になることが多いため、定期的な情報確認が必要です。

また、「外形標準課税の対象範囲」についても、地方税収確保の観点から拡大が検討される動きがあるため、赤字でも負担が発生する法人税制のトレンドには要注意です。

会社設立や資本金の増減を検討する際は、信用力だけでなく「税務上の優遇措置」にも目を向けることが重要です。

特にスタートアップや中小企業では、資本金を1億円以下、できれば3,000万円または1,000万円以下に設定することで、初期の資金繰りや経営の安定に直結する税務メリットを享受できます。さすがに1億円となると、かなりの規模になりますが、少なくとも10,000,000円のラインは意識しておく必要があるでしょう。

「うちの会社は資本金いくらが最適だろう?」「減資しても問題ない?」といったお悩みは、税務と法務の両面からアドバイスできる当事務所にぜひご相談ください。