登記簿謄本の正体

登記の仕事をやっていると、よく「登記簿謄本」という言葉を聞きます。何気なく使っているこの言葉ですが、実際のところはどういったものを指すのでしょうか?

よく使われる場面としては、「登記事項証明書」という書類を指して「登記簿謄本」と呼んでいます。それでは、この2つは同じものなのかといえば、まったく異なるものです。「登記簿謄本」とは、その名の通り「登記簿」の「謄本」です。謄本とは、原本をそのまま完全に写した文書です。(一部だけ写したものを「抄本」といいます。)登記簿については、以下の通り、法律で定められています。

不動産登記法 第2条
九 登記簿 登記記録が記録される帳簿であって、磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物を含む。以下同じ。)をもって調製するものをいう。

商業登記法 第1条の2 
一 登記簿 商法、会社法その他の法律の規定により登記すべき事項が記録される帳簿であつて、磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物を含む。)をもつて調製するものをいう。

磁気ディスクとは、サーバーに保存されているデータと思っておけばよいでしょう。つまり、登記簿とは法務局に保存されているデータそのものです。あえていえば、登記簿謄本は、法務局でサーバ保存されているデータの完全コピーということになります。

登記事項証明書とは?

「登記事項証明書」は登記簿のうち、必要な情報をデータベースから出力して印刷したものです。登記事項証明書は、表示する内容によって、以下のように分かれます。

商業登記の場合 全部証明 一部証明
抹消部分も含めて表示 履歴事項全部証明書 履歴事項一部証明書
現在有効なもののみ表示 現在事項全部証明書 現在事項一部証明書
清算などで閉鎖したものを表示 閉鎖事項全部証明書 閉鎖事項一部証明書
代表者の資格を表示 代表者事項証明書

金融機関での口座開設の際などに「登記簿謄本を提出してください。」と言われることがあるようですが、さすがに法務局のデータベースにアクセスしてデータをコピーすることなどできるわけがありません。登記事項証明書の提出という意図で使っているのでしょうが、普段からこういった書類に触れている人でもなければ分からないでしょう。こちらとしては、「おそらくそれはお渡ししている登記事項証明書のことを指しているのだと思いますよ。」と説明するのですが、こういった書類に普段触れないクライアント様からすれば、書類のタイトルからしか判断するしかないでしょうから、混乱するのも無理はありません。

登記簿謄本も完全には消滅していない

「登記簿謄本」という存在もいまだに生きています。2004年に法改正があってからは登記簿はデータに移行しましたが、それ以前に閉鎖されていた登記簿についてはデータ化されず紙のままの保存になっています。そうした登記簿は、まさに「登記簿謄本」として紙で取得することになります。

こうして両者が併存しているからこそ、せめて普段から登記事項証明書に触れているような金融機関や不動産会社のご担当者の方は、混乱を防ぐためにも、より厳密に用語を区別してほしいと願っています。