遺産分割協議の期限

相続人が複数ある場合で、法定相続分以外の相続を行うには相続人全員での遺産分割協議が必要です。現預金や利用している不動産などがあれば、早々に遺産分割協議を行って具体的に相続人に分配するのが通常ですが、中にはあまり換金価値がない遺産が多いケースなどは遺産分割協議を行わずに放置されていることもあります。

相続人からすれば、遺産分割協議をしてもメリットがない場合に、あえて手間や費用をかけて遺産分割協議を行うインセンティブは働かないのも無理はありません。しかし一方で遺産分割協議が行われずに長期間たてば、場合によっては相続人にさらに相続が発生して、遺産の共有関係が複雑化して所有者不明土地が増加する原因になってしまいます。相続財産の共有持分を持つ相続人が増加すれば、遺産分割協議を進めることすら困難になってしまいます。

そこで、民法では以下の規定を設けることで、遺産分割協議について間接的に期限を設けています。

民法 第904条の3

前3条の規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

  1.  相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
  2.  相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

前3条とは、以下の3つの条文です。

第903条 特別受益者
第904条 贈与の価額
第904条の2 寄与分

上記の条文は、遺産分割協議を相続開始から10年以内に行わなければならないということを規定しているわけではありません。ただし、特別受益寄与分についての主張ができなくなる、つまり法定相続分(遺言による指定があれば指定相続分)をベースに遺産分割を行うことになるため、遺産分割協議が簡潔になります。

逆に言えば、ほかの相続人の特別受益を主張したり、自己に寄与分があることを主張したりしたければ、相続開始から10年以内に遺産分割を済ませる必要があります。

遺産分割協議の期限は明確には定められていない

特別受益寄与分がないようなケースではこの条文をもっても遺産分割協議の期限を早めるインセンティブを持つことはありません。また、寄与分や特別受益が主張できなくなっても、遺産分割協議で法定相続分以外の分割を行うこと自体が禁止されるわけではありません。

結論的には遺産分割協議に明確に定められた期限はありませんが、上記の条文のほか相続登記の義務化など別の法律から遺産分割協議を早めるインセンティブが働くものと考えられます。