Aさんが所有権の登記名義人である土地を10年間善意無過失で占有しているBさんがいるときに、10年間の占有期間の途中でAさんに相続があって相続人Cさんが相続登記を行った場合は、占有者Bさんは時効の援用ができるのかということがあります。
結論からいえば、この場合は占有者Bさんは相続人Cさんに対して時効の援用ができます。相続人は被相続人の地位を引き継ぎますので、土地を占有されているという立場も引き継ぎます。相続が発生したからといって、占有という事実が途切れるわけでもありませんので、占有しているBさんとしては、そのまま占有を続けていれば取得時効が完成します。これは所有者に相続が発生したことを占有者Bさんが知っていても変わることはありません。
登記手続きは?
この場合は、相続登記と時効取得による所有権移転登記のどちらが優先されるのかという問題があります。時効取得については以下のように定められています。
民法 第144条 時効の効力は、その起算日にさかのぼる。 |
時効の効力が起算点にさかのぼるのであれば、相続発生前に時効の効力が発生していることになりますので、相続登記も無効であるという考え方もできます。しかし、いったん行った相続登記を抹消して、あらたに時効取得による所有権移転登記を申請するとなると、手間もコストも余分にかかります。そこで、便宜的に相続人から時効取得者への所有権移転登記をすることが認められています。
相続人としては、相続登記を行った不動産について時効取得が完成した場合に所有権移転登記を申請することは損をした気分になるかもしれません。しかし、時効取得が完成した以上は時効取得が完成した以上は登記に応じる義務があります。今後は相続登記の義務化によって、これまで以上に相続不動産の時効取得についてもより案件が増える可能性があります。長年登記が放置されている不動産については、占有者の有無も確認しておく必要があるでしょう。
司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。少しでも相続人様の疑問や不安を解消すべく、複数資格を活かして相続人様に寄り添う相続を心がけている