Last Updated on 2025年4月3日 by 渋田貴正

最近、海外に住みながら日本向けにビジネスを展開したいというご相談をよくいただくようになりました。特に、海外在住のエンジニアやデザイナーの方が、日本の企業からの業務委託(BtoBビジネス)を受けるケースや、海外の商品を日本向けにオンラインで販売する(BtoCビジネス)といった例が増えています。

こういったケースでまず問題となるのが、「日本で会社を作るべきか、それとも海外にいながら個人事業主として始めるか?」という選択です。

個人の非居住者としての課税の基本

まず、個人としてビジネスを始める場合、税務上のポイントは「どこで課税されるか」という点です。

日本では、非居住者(日本に住所や1年以上の居所がない人)については、日本国内に源泉のある所得(=国内源泉所得)に対してのみ課税されます。これに該当するのは、日本国内に「恒久的施設(Permanent Establishment、通称PE)」があるかどうかが判断基準です。恒久的施設とは、たとえば継続的な事業所・オフィスや、日本国内に雇用したスタッフがいるようなケースが典型です。

したがって、日本国内に恒久的施設がなければ、非居住者の個人事業主に対して日本で課税されることは基本的にありません。その場合は、居住国での課税対象になります。

ただし、日・○○租税条約のように、二国間で課税の取扱いが異なる場合もあるため、居住国と日本の租税条約の内容を確認しておくことが非常に重要です。

日本法人を設立した場合の課税

一方で、日本国内に法人(株式会社や合同会社など)を設立した場合、その法人は日本国内に所在する独立した納税主体となるため、たとえ代表取締役が海外に在住していたとしても、法人の所得には日本で法人税が課税されます。これは、法人の所在地(本店所在地)が日本である以上当然のこととなります。

法人税のみならず、売上や業種によっては消費税の課税事業者となる可能性もありますので、課税関係は個人よりも広範かつ複雑になります。

海外法人を設立した場合の課税

海外に法人を設立するという選択肢もあります。この場合、原則として設立した国で法人税が課税されますが、やはり注意しなければならないのは、日本国内で恒久的施設があると判定された場合には、その施設を通じて得られた利益については、日本でも法人税が課されるリスクがあるということです。

つまり、「どの国に法人があるか」だけでなく、「どの国でビジネスを行っているか」という実態も課税判断には大きく影響するのです。

選択肢 日本国内に恒久的施設がない場合 日本国内に恒久的施設がある場合
個人事業主 居住国で課税 日本で所得税課税
日本法人設立 日本で法人税課税 同左
海外法人設立 設立国で課税 日本にも課税の可能性

このように、ビジネスの形によって課税のルールは異なりますが、最終的にどの形を選ぶべきかは次のような観点から検討すると良いでしょう。

  • 事業の収益性(儲かる見込みがあるか)

  • 取引先からの信頼性(法人格を求められることがある)

  • 経理・税務手続の簡易性(個人の方がシンプル)

  • ビザや在留資格の取得要件(日本に来る予定がある場合)

特に取引先が日本の企業である場合、「日本法人があるほうが信用できる」という理由から、法人設立を求められることも少なくありません。このような場合、実務的には日本法人の設立を選んだほうが無難と言えます。

まずは個人事業主でスタートしてみる

もっとも、ビジネスが軌道に乗るか不透明な段階で法人を設立するのはコストや手間の面で負担になることもあります。そうした場合には、まずは個人事業主としてスタートし、1年ほど様子を見てから法人化するという柔軟なアプローチも十分に可能です。

ただし、ビジネスの内容によっては日本では個人事業主として登録できず、海外での個人事業主というケースもあります。どうしても日本で納税したいなどの事情があれば、日本で会社設立を検討する必要もあります。

最終的にはやはり「ケースバイケース」になりますが、収益の見込みや取引先の希望、税務リスクなどを踏まえて、最適な形を選ぶことが重要です。

ちなみに、海外在住者が日本法人の代表になる場合の登記手続きや、納税管理人の届出義務(所得税法第117条、法人税法第161条)など、注意すべき点もいくつかありますので、設立前にしっかりと専門家に相談されることをおすすめします。

当事務所では、海外在住の代表者が設立した日本法人の登記・税務・顧問業務を一貫してサポートしています。海外からでも安心して日本でのビジネスをスタートできる体制を整えておりますので、ぜひお気軽にご相談ください!