相続の業務には、相続登記や預金口座の解約などがあります。例えば相続登記などは、遺産分割協議書や法定相続の通りに登記の手続きをすることが業務なので、その過程に価値は正直言ってありません。相続登記を申請して、登記完了まで行うことが業務であり、このように結果がすべてといった契約を請負契約といいます。

このような請負契約としばしば対比される契約形態として、委任契約があります。委任契約と請負契約の違いはいろいろとありますが、ざっくり言えば結果も業務の評価対象になるのが委任、結果が全てといった契約が請負ということになります。例えば、行方不明の相続人を捜索する業務で、捜索して連絡が取れるまで報酬が発生しなければ請負契約ですし、もし捜索の結果相続人が見つからなくても、その捜索したことそのものについて対価を払うのであれば委任ということになります。

さらに、この委任には「準委任」というもう一つの形態があります。この準委任については、以下のように規定されています。

民法 第643条

委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

民法 第656条

この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

法律上、「準委任」という言葉は出てきませんが、上記の民法で委任の条文を準用された行為を「準委任」と呼んでいます。

法律行為ではない事務の委託」を準委任と呼んでいるので、委任と準委任の違いは、法律行為の委託か法律行為以外(事実行為)の委託かという違いになります。

法律行為と事実行為の違い

委任と準委任の違いのポイントは法律行為の委託か、事実行為の委託かという違いであることが分かりました。それでは法律行為と事実行為とは何かということが分かれば両者の違いも明確になります。

法律行為と事実行為の違いはこちらの記事でも細かく解説していますが、簡単にいえば以下のようにまとめられます。

法律行為 特定の効果を発生させることを意図して行われる行為
事実行為 行為者の意思にかかわらず法律効果を発生しうる行為

「準委任」という言葉が使われるのは、例えばIT関係の仕事で開発や保守などで月ベースの業務を委託するようなケースです。この場合、開発や保守という行為そのものを委託します。委託を受けた会社は何かしらの法律的な効果(例えばシステムを保守することでだれかにそのシステムの所有権が発生する)を意図して業務するわけではなく、委託内容に沿って業務を粛々とこなしていくことが契約内容です。

そのほかに、例えば相続が発生して、被相続人が残した財産を保全するように委託された人がいれば、その人と相続人の関係は準委任契約です。委託された人の業務は財産の保全であり、保全すること自体で何かしらの効果(例えば誰かに所有権が移転するなど)が発生するわけではないからです。

結局、委任と準委任の区別というのは、こうした法律的な観点によって便宜的に分けられているだけです。業務を行う側からすれば、対価を受け取って業務を行う以上、その行為が何かしらの法律的な効果を発生されるかどうかということを考えながら業務することはないでしょう。この意味で「準委任」という言葉は法律上条文が分かれているために生まれた言葉であって、委任と区別する意味はないといってもよいでしょう。

準委任という言葉が出てきたら、委任とイコールだと思っておいて差し支えないでしょう。わざわざこうした言葉の使い分けが行われるのは、民法上法律行為と事実行為についての委任の条文が分かれているためです。