Last Updated on 2025年1月2日 by 渋田貴正
士業法人の社員は、いわば株式会社でいうところの取締役のようだと思われますが、実際には合名会社や合資会社の無限責任社員に近い扱いです。そのため、社員の脱退については基本的に、合名会社などの無限責任社員の退社ルールが準用されています。
そのため、士業法人の社員の脱退については、大きく分けて法定脱退と任意脱退の2種類が定められています。
士業法人の社員の法定脱退
法定脱退とは以下のような事由による脱退です。士業によって若干の違いはありますが、おおむね以下の事由が法定脱退と理解しておいて差し支えないでしょう。(持分会社でいうところの法定退社)
脱退事由 | 説明 | |
---|---|---|
1 | 登録の抹消 | 弁護士、税理士などの資格を失う場合。例:死亡、資格喪失など。 |
2 | 定款に定める理由の発生 | 法人の定款に具体的に記載された脱退事由が発生した場合。 |
3 | 総社員の同意 | 法人の全社員が一致して特定の社員の脱退に同意した場合(脱退する社員も含んだ同意が必要) |
4 | 他士業について懲戒処分を受けて業務停止となった場合 | 弁護士、税理士、公認会計士、弁理士、司法書士、行政書士若しくは社会保険労務士などを兼業している場合に懲戒されたケース |
5 | 業務の停止の処分を受けた場合 | 税理士の脱税相談や虚偽書類の作成など |
6 | 除名 | 法人内の規定や総社員の決議に基づき、特定の社員が除名された場合。 |
上記の法定脱退事由は、それぞれの士業の法律(弁護士法、税理士法、司法書士法、社会保険労務士法、弁理士法、行政書士法など)に規定されています。
士業法人の社員の任意脱退
上記の法定脱退は各士業の法律で規定されているものですが、もう一つ任意脱退という方法があります。この任意脱退については各士業の法律で独自に規定されているものではありません。この任意脱退の制度は、会社法で合同会社、合名会社、合資会社の社員のために定められている任意退社制度を準用する形で各士業法人の社員に適用されます。
具体的には以下の会社法の条文を準用する形で任意脱退が可能となっています。
(任意退社) 会社法 第606条 持分会社の存続期間を定款で定めなかった場合又はある社員の終身の間持分会社が存続することを定款で定めた場合には、各社員は、事業年度の終了の時において退社をすることができる。この場合においては、各社員は、6か月前までに持分会社に退社の予告をしなければならない。 2 前項の規定は、定款で別段の定めをすることを妨げない。 3 前二項の規定にかかわらず、各社員は、やむを得ない事由があるときは、いつでも退社することができる。 |
上記の通り、各士業法人の定款で特に定めがなければ
1)6か月前予告をしていること
2)事業年度終了まで待つこと
を前提に脱退することができます。社員の脱退は法人の運営に大きな影響を及ぼすために6か月の期間を設けています。また、脱退にあたって持分の払戻しの計算を行う必要があるため、事業年度終了時となっています。通常の従業員のように1か月や2週間後に退社したいということは基本的にはできないということです。
やむを得ない事由があればいつでも退社できると定められていますが、やむ得ない事由もケースバイケースです。例えば事業内容が大きく変わり、設立当初に合意した内容の通りに社員を続けることができなくなった場合や、法人自体の業績が不振で自己の持分を保全するために退社するようなケースが該当すると考えられます。
司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。少しでも相続人様の疑問や不安を解消すべく、複数資格を活かして相続人様に寄り添う相続を心がけている