Last Updated on 2025年1月3日 by 渋田貴正

代表者の住所非公開措置の概要

会社の代表者の住所は会社の登記の必須事項となっています。

しかし、商業登記の登記記録はお金さえ出せば誰でも法務局で取得することができるため、代表取締役や代表社員の住所を誰でも知ることができるということでプライバシーの問題も生じています。

例えば、登記記録に代表者の住所が掲載されることで、以下のような問題が懸念されます。

  • 嫌がらせやストーカー被害
    代表者の住所が公開されると、会社運営や意思決定に不満を持つ第三者が、直接的な嫌がらせを行うリスクがあります。
  • 犯罪の標的になる可能性
    悪意を持った人物が住所情報を悪用し、詐欺やその他の犯罪に利用するケースがあります。
  • プライバシーの侵害
    特に、自宅を登記住所としている場合、個人のプライバシーが大きく侵害されることになります。

そこで検討されているのが法人の代表者の住所の非公開化です。2024年10月1日より導入された本制度では株式会社の代表取締役のほかに合同会社の代表社員、一般社団法人の代表理事なども対象です。

非公開を選択した場合、住所は市区町村までの記載となります(例えば「東京都千代田区 代表取締役 山田太郎」のようになります。)

代表者の住所非公開措置の要件

1 登記申請と同時に申し出ること。
代表取締役等住所非表示措置を講ずることを希望する者は、登記官に対してその旨申し出る必要があります。また、代表取締役等住所非表示措置の申出は、設立の登記や代表取締役等の就任・重任の登記、代表取締役等の住所移転による変更の登記、他管轄への本店移転登記など、代表取締役等の住所が登記されることとなる登記の申請と同時にする場合に限りすることができます。

単独で代表者の住所非公開措置だけを申し出ることはできないということです。この点、旧姓を併記したい旨の申し出は単独で申し出ることができる点と異なります。

2 所定の書面を添付すること。
代表取締役等住所非表示措置の申出に当たっては、以下の区分に応じた書面の添付が必要となります。上場会社に比べて、非上場会社の必要書類が多く複雑です。

必要な書類の種類 具体的な書類 注意事項
上場会社 株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面 金融商品取引所のホームページに掲載された会社情報のスクリーンショット ・代表取締役等の署名や押印は不要
・商号、設立年月日、代表取締役の氏名など登記されている事項と一致する内容が必要
・既に非表示措置が講じられている場合は添付不要
非上場会社 配達証明郵便により送付されたことを証する書面 ・株式会社宛の配達証明郵便の受領証
・資格者代理人(司法書士など)作成の確認書
株式会社の商号や本店所在地が登記記録と一致していること
代表取締役等の氏名及び住所が記載された証明書 ・住民票の写し
・戸籍の附票の写し
・鑑証明書
申出と併せて行う登記申請書に印鑑証明書が添付されていれば、それで兼ねることができる
実質的支配者の本人特定事項を証する書面 ・資格者代理人が確認を行った記録の写し
公証人法に基づく認証を受けた供述書
・実質的支配者の申告受理および認証証明書
一定期間内に実質的支配者リストの保管申出があれば不要
住所非公開措置がされている代表者の住所が変わった場合

代表取締役等住所非表示措置が講じられている代表取締役等であって、当該代表取締役等の住所に変更がある登記を申請する場合には、改めて代表取締役等住所非表示措置の申出が必要となります。
代表取締役等住所非表示措置の申出がされずに住所に変更がある登記が申請された場合、新しく登記される住所については代表取締役等住所非表示措置がとられずに、フルに住所が載ってしまいます。代表者が引っ越した場合で、継続して住所非公開措置を取りたい場合には、住所変更登記の際に忘れずに代表取締役等住所非表示措置の申出を行う必要があります。

代表者の住所非公開措置を利用する場合の注意点

今のところ金融機関の口座開設や融資を受ける際には登記記録上の代表者の住所と、代表者個人の身分証明書の住所が一致していない場合には登記記録を現住所に合わせる登記が必要になります。しかし、住所が非公開になると代表者は氏名だけが登記されることになるので、登記記録と身分証明書による本人確認が困難になります。(同姓同名であれば可能性がありますが、住所と氏名が一致するということは現実的にはほぼないので、これまでは本人確認ができていました。)

こうした点については、住所非公開措置が取られている場合、住所の証明ができなくなります。金融機関の口座開設や融資申請で支障が出た場合は、やむを得ないので代表取締役等住所非表示措置を解除する必要も出てくるかもしれません。

代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出は、登記申請と同時である必要はなく、単独で行うことができます。

当事務所ではもちろん会社設立やその他の代表者関係の登記をする際に、ご希望に応じて住所非表示の対応を行っています。お気軽にご相談ください!