Last Updated on 2025年1月3日 by 渋田貴正

取締役の利益相反取引とは?

利益相反取引とは、取締役が自ら、または第三者の利益のために会社と取引を行う際、取引によって会社の利益が損なわれる可能性がある取引をいいます。つまり、取締役が得をすることで会社が損をする可能性がある取引のことです。

(競業及び利益相反取引の制限)
会社法 第356条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 中略
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

利益相反取引は、取締役の忠実義務に反する可能性があり、また会社にとって不利な結果を招く恐れがあります。そのため、取締役が利益相反取引を行う場合、会社法に基づき、株主総会(取締役会があれば取締役会)の承認が必要とされます。

利益相反取引には以下の2種類があります。

直接取引 取締役が自己または第三者のために、会社と直接取引を行う場合
間接取引 取締役以外と会社の間の取引で、その取引が会社と取締役の利益相反となる場合

利益相反取引については、取締役が自ら行うだけではなく、取締役が支配株主である会社(代表が該当の取締役以外の者だったとしても)を経由して行う場合も該当します。

なお取締役会設置会社の場合は、承認を受けたとしても利益相反取引の結果を取締役会に報告する義務があります。

利益相反取引の例

以下のような取引が利益相反取引に該当します。

直接 取締役・会社間で行われる売買契約 原則として株主総会の決議が必要
直接 使用人兼務役員への使用人給与の支払い
直接 会社から取締役への贈与
直接 取締役から会社への金銭貸付(利息付)
直接 会社が取締役の債務を免除
直接 取締役が受取人となる会社からの約束手形の振り出し
間接 会社が取締役の債務を保証する行為
間接 会社が取締役の債務引受契約をして債務者となる行為
間接 取締役の債務を担保するため、会社の不動産に抵当権を設定する行為

株主兼役員1名の会社であれば利益相反取引は発生しない

利益相反取引とは会社と取締役の利益が相反する取引です。ここで「会社」とはつまり株主のことです。取締役が得をすることで株主が損をする利益相反取引について、1人で株主兼取締役であるケースについてまで規制する意味はありません。得をするのも自分(取締役として)、損をするのも自分(株主として)だからです。

利益相反取引の効力

会社の承認を得ずに利益相反取引を行った場合は、会社としては相手方に無効を主張することができます。ただし、相手方が利益相反取引について未承認であることについて知らない(善意である)場合には、取引の安全性を考慮して無効を主張することはできないとされています。

また、取引を行った後の事後的な承認も有効とされていますが、もし承認を受けた場合でもその結果会社に損害を与えた場合に取締役が免責されるわけではありません。あくまで、利益相反取引の承認とは、取引を有効に成立させるための条件に過ぎないということです。