時効完成前に所有者に相続が発生した場合

不動産などの時効取得には①占有開始、②時効完成、③時効援用という3つの時点が存在します。

この3つの時点を考慮すると時効と相続の関係については以下のようなパターンが考えられます。所有者とは登記上の所有者などを指し、占有者とは実際にその不動産を占有している者を指します。

パターン1 占有開始前に 所有者に相続発生
パターン2 占有者に相続発生
パターン3 時効完成前に 所有者に相続発生
パターン4 占有者に相続発生
パターン5 時効援用前に 所有者に相続発生
パターン6 占有者に相続発生
パターン7 時効援用後に 所有者に相続発生
パターン8 占有者に相続発生

この中で、パターン3の時効完成前に所有者に相続が発生した場合について説明します。

この場合、相続人が所有者の不動産を相続することになりますが、占有者が行っている占有の期間が所有者の相続でリセットされることはなく、占有者としては依然として被相続人の時代からの占有期間を通算できます。

時効完成前に所有者に相続が発生した場合の登記手続き

この場合、相続登記を完了しているかどうかで登記手続きが若干異なってきます。

【所有者の相続人が相続登記をしていない間に占有者の時効援用があった場合】

相続人を登記義務者として、直接被相続人から占有者への所有権移転登記

この場合、時効取得の効果は占有開始時に遡及するので、被相続人から相続人への相続登記は必要ありません。

もし相続人が複数人いた場合は、すべての相続人が登記義務者となる必要があります。一部の相続人だけが登記義務者となって占有者と共同で登記申請することはできません。

【所有者の相続人が相続登記を申請した後に占有者の時効援用があった場合】

相続人を登記義務者として、相続人から占有者への所有権移転登記

時効取得の効果は占有開始時に遡及するので、本来であれば相続登記を抹消して時効取得の登記を申請すべきところですが、相続登記後に時効取得の登記を申請することが可能です。この場合、相続登記の原因日よりも時効取得の原因日が前になりますが問題ありません。

すでに相続登記が完了している場合であっても、相続人が複数人いた場合は、すべての相続人が登記義務者となる必要があります。一部の相続人への相続登記の分だけを移転させることはできないのは相続登記未了のケースと変わりありません。

 

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