時効取得においては、占有は自己のためにする自主占有であることが必要です。他人のためにする占有は他主占有といい、他主占有者は何年占有してもその土地を時効取得することはできません。
契約上借りていることになっていても自分は所有のつもりだったというような個別的な事情を考慮すると法的な安定もあったものではありません。そのため、時効取得の根本的な考え方である「自主占有」については外形的に判断するということになっています。
自主占有開始の例 | 売買、贈与、交換 |
他主占有開始の例 | 賃貸借、地上権、質権、他社の財産管理契約、親権者が未成年者のモノを占有 |
自主占有でないと占有権は発生しないため、一定期間の占有の継続をもとに権利を発生させる時効取得も自主占有でないと発生しないということになります。
自主占有は外形的に判断するので、登記上他人名義の土地であることを知っているなど、所有権は他人に帰属しているということを認識していたとしても、自主占有は成立します。
この占有権は相続されるため、自主占有者が死亡した場合、その占有権は相続人に引き継がれ、相続人は被相続人の占有期間をもとに時効取得を主張することができます。一方、被相続人が他主占有者であれば占有権は相続されませんので、その相続人も被相続人の占有をもとに時効取得を主張・援用することはできないということになります。
しかし、もし被相続人が亡くなった後、その土地を相続人が自己のものだと信じて占有を開始した場合は、相続をもって新たな占有が開始されたものとして相続後に自主占有を開始したということで時効取得の期間をカウントし直すことが可能です。
民法
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たとえば、被相続人は借地であることを認識していたけど賃料の支払いが事実上行われていなかったような場合で、相続人が被相続人の土地だと信じて相続して相続登記が行われていなかったようなケースが考えられます。(相続登記の義務化によって相続時に被相続人所有の不動産を確認することは当たり前のことになってきているので、このようなケースは今ではあり得ないかもしれませんが。)
もちろんこの場合は、相続がきっかけとなって新たに自主占有を開始することが必要なので、相続後に自主占有を開始したわけではない相続人については時効取得は主張できません。
相続人が開始した占有が自主占有であることの証明責任
通常の時効取得では、占有者が自主占有であることは民法の規定によって推定されるため、真の所有者によって占有者の占有が自主占有ではないことが証明されなければ、占有者の占有は自主占有ということになります。しかしこの規定は.他主占有者の相続人が相続をきっかけとして自主占有を開始したケースには適用されません。この場合において自主占有への転換は、相続人が新たな事実的支配を開始したことによって従来の占有の性質が変更されたものであり、相続人に所有の意思があるかどうかということは相続の発生という事実からは推定できません。そのため、自主占有への転換の事実は,占有者の相続人自身において立証を要するということになります。
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司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。少しでも相続人様の疑問や不安を解消すべく、複数資格を活かして相続人様に寄り添う相続を心がけている