Last Updated on 2025年1月5日 by 渋田貴正

相続人等に対する株式の売り渡し請求とは

会社を設立する際の定款のモデルを見ていると、必ずといってよいほど入っているのが「相続人に対する株式の売り渡し請求」の条文です。大体は以下のような感じで定款に含まれています。

第〇条 当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。

この条が定款に存在しているのは、会社法で以下のように定められているためです。

(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
会社法 第174条
株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。

ここでいう一般承継とは相続や合併、包括遺贈を思い浮かべればよいでしょう。株式の「譲渡制限」が有効なのは売買や贈与などのいわゆる特定承継の場合だけであり、相続などによって発生する株主の変更まで制限することはできません。

一方で、非公開会社では、相続といえども望まない株主が会社の経営に関与することは避けたいところです。そこで、譲渡制限株式に一般承継があった場合に会社がその相続人等から相続した株式を買い取ることで、望まない株主の発生を防止することができます。

ただし、相続人等への株式の売り渡し請求を行うためには、まずは定款にそのことが定められている必要があります。一般承継があった場合に買い取り請求をするかどうかは会社の判断に委ねられますが、いずれにしても選択肢を残しておくためにこの売り渡し請求の条文を定款に入れておくのが一般的です。もし定款にこの定めを入れていないと、相続人等への売り渡し請求はできないです。

いくらで相続人等に対する株式の売り渡し請求を行うか

相続人への売り渡し請求を行う金額については会社と相続人等の協議で決めればよいのですが、話がまとまらなければ裁判所に対して価格決定の申立ができます。ただし、買い取りの効力発生日における分配可能額を超えることはできません。

相続人等に対する株式の売り渡し請求ができる期間

相続人等に対する株式の売り渡し請求については、相続その他の一般承継があったことを会社が知った日から1年を経過するまでに行う必要があります。この相続等を知った日というのは、相続の場合は被相続人の死亡の事実を知った日を言います。自社の株式をその相続人が取得するのかを知った日ではありません。

会社設立時の定款の作成においては、何気なくひな型を使っているとどのような条文が入っているか確認せずに登記しているケースもあるかもしれません。思い当たる節がある方は今一度自社の定款を確認しておいた方がよいかもしれません。