Last Updated on 2024年12月31日 by 渋田貴正

贈与の取消しと贈与税の還付の関係

贈与については、民法上以下のように定められています。

贈与
民法 第549条贈与は、当事者の一方がある財産権を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。(書面によらない贈与の解除)
民法 第550条
書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。

このように、受贈者と贈与者双方の意思によって贈与が成立します。そしていったん成立した贈与は書面を交わしていれば一方の意思表示によって解除することはできませんし、口頭での贈与でも履行完了、つまり資産の受け渡しが終わっていれば解除できません。

このような贈与契約について、いったん行われた贈与がなかったことになる、つまり贈与の取消しが行われるパターンとしては、以下の2つが考えられます。

法定取消権に基づく解除
(民法に定められた取消権)
錯誤、詐欺、強迫、夫婦間の契約取消し、法定代理人による未成年者法律行為の取消し
合意解除 受贈者と贈与者の間で任意に贈与契約を取り消した場合

このうち、いったん課税された贈与税について、いったん納めた贈与税の還付を受けることができるのは法定取消権に基づく解除の場合のみです。

いったん有効に成立した贈与について、当事者が法定取消権ではなく、任意に贈与を取り消して資産を受贈者(贈与を受けた人)から贈与者(贈与をした人)に返却したとしても、いったん納めた贈与税を更正の請求で取り戻すことはできません。

このとき、任意に贈与した資産を返却する行為は、実際には受贈者から贈与者に対して新たに贈与をしたようなものですが、贈与者に贈与税は課税しないということになっています。

法定取消権による贈与契約の解除に伴う更正の請求

民法に定められた法定取消権が行使された場合、さすがに合意解除のように贈与税を課税したままではありません。法定取消権は民法上で国が規定した取消権なので、そのルールに従って贈与がなかったものとなった以上、贈与税は課税したままというわけにはいかないということです。

民法上の法定取消権のうち、贈与が関係しそうなものは以下のようなものが挙げられます。

法定取消権 内容 主な条文 内容
未成年者取消権 未成年者が法定代理人の同意を得ずに行った法律行為を取り消すことができる。 民法第5条 未成年者が親の同意を得ずに高額な不動産を贈与した場合、その贈与契約を取り消せる。
成年被後見人取消権 成年被後見人が日常生活に関する行為以外の法律行為を行った場合に取り消すことができる。 民法第9条 成年被後見人が後見人の承諾を得ずに高額な財産を贈与した場合、その贈与契約を取り消せる。
詐欺取消権 詐欺によって行われた法律行為を取り消すことができる。 民法第96条 相手が「贈与を受けることで特別な税優遇がある」と偽って財産を受け取った場合、その贈与契約を取り消せる。
強迫取消権 強迫によって行われた法律行為を取り消すことができる。 民法第96条 相手から脅迫されて不本意ながら高額な財産を贈与した場合、その贈与契約を取り消せる。
錯誤取消権 意思表示に錯誤があった場合に、その意思表示を取り消すことができる(一定の要件を満たす場合)。 民法第95条 贈与する財産の価値を誤認して過大な贈与契約を結んだ場合、取消要件を満たせばその契約を取り消せる。
無権代理取消権 無権代理人が本人の同意なく法律行為を行った場合に、本人が追認しない限り取り消すことができる。 民法第113条 無権代理人が本人の所有する土地を勝手に贈与したが、本人が承認しない場合、その贈与契約を取り消せる。
夫婦間取消権 夫婦間で行われた贈与契約など、一定の条件下で取消しが可能。 民法第754条 配偶者が高額な財産を贈与したが、贈与された側が生活に不要と判断して取消を求めた場合、取り消せる。

上記の法定取消権に基づいて取り消した贈与については、更正の請求の対象となり、贈与税の還付の可能性があります。ただし、法定取消権の行使があったことを証明する書類を税務署に提出することが必要です。どのような書類が必要なのかについては、税理士に相談するなどして慎重に準備することをおすすめします。