Last Updated on 2025年1月3日 by 渋田貴正

「戸籍」という制度が存在する国は、世界広しと言えども日本や台湾など一部の国だけです。また、一口に「戸籍」といっても、その制度は日本とは大きく異なります。今回は台湾の戸籍制度について簡単にまとめました。

台湾の戸籍法の歴史

台湾(中華民国)の戸籍法は、1931年(昭和6年)12月12日に公布され、同日施行されました。ただし、この施行は国民党が支配する区域に限定されていましたが、1945年8月15日に日本が降伏し、台湾では降伏式典が台北市で行われた同年10月5日から全国的に施行されました。

台湾の戸籍の中身

台湾戸籍法第3条では、戸籍の登記は戸を単位とし、一家庭または同一場所で同一の主管者のもと共同生活や共同事業を営む者を一戸とすると規定されています。また、家長や主管者を戸長とします。

戸籍の種類 内容
単独生活戸 同一の場所で一人で生活する戸
共同生活戸 同一の建物または同一の場所で共同生活する戸

  1. 世帯主
  2. 世帯主の配偶者
  3. 世帯主の直系尊属
  4. 世帯主の傍系親族
  5. その他の家族
  6. 寄居人(世帯主と親族関係のない者)
共同事業戸 同一の場所で、同一の主管者が経営する工場、商店、寺院、機関、学校などに属する生活戸

  1. 世帯主
  2. 被用者
  3. 学生
  4. 被収容者
  5. その他の構成員
  6. 同居人
台湾の戸籍の管轄機関

台湾戸籍法第5条により、戸籍の登記は直轄市、県(市)の主管機関によって、その管轄区域に分設された戸政事務所が処理します。日本でいうところの本籍地の自治体です。

台湾の戸籍の閲覧や戸籍謄本の交付請求

日本で相続手続きを取る場合の相続証明書としては、原則として共同生活戸の戸籍謄本が必要となります。

台湾戸籍法第65条では、本人および利害関係者は費用を納めて戸籍登記簿の閲覧および戸籍謄本を請求することができると規定されています。
改正された同法では、個人情報保護の観点から親等関係資料の申請について第65条の1で詳細な規定を設けています。

  • 第65条の1第1項第3号: 相続登記の処理において、被相続人の配偶者および血族関係を調査して証明する必要がある場合を規定
  • 第65条の1第4項: 申請者または委任を受けた代理人が親等関係資料を申請する場合、戸政事務所は利害関係のある部分のみを提供可能

この規定により、現在は抄本しか入手できないケースが増えていて、この件が実務に大きく影響を及ぼしています。日本の法務局では、抄本だけでは他の相続人がいない証明にならないと判断し、相続人全員に「他に相続人がいない旨の上申書」を添付するよう求める場合があります。

台湾の戸籍と日本の戸籍の違い

日本の戸籍制度と台湾の戸籍制度についての違いをまとめました。というよりも、「戸籍」といっても日本と台湾ではその内容に大きな違いがあります。

簡単ではありますが、いかに違いをまとめました。

項目 日本の戸籍制度 台湾の戸籍制度
基本単位 「夫婦とその未婚の子」を基本単位とする(家族単位)。 「戸」を基本単位とし、一家庭または同一場所で共同生活や共同事業を営む者を一戸とする。
戸長(責任者) 戸籍には「戸主」という概念はない。「戸籍筆頭者」はあくまで戸籍を検索、特定するためにつけられる。 家長または主管者を「戸長」として登録する。
構成員の記載順序 血縁や婚姻関係に基づいて記載。 共同生活戸と共同事業戸で記載順序が異なる(例:世帯主、配偶者、直系尊属の順)。
役割・目的 個人の身分事項(出生、婚姻、死亡など)を登録し、親族関係を証明する。 個人の身分事項に加え、共同生活や共同事業の管理・証明を行う。
法的背景 戸籍法に基づき全国統一の制度を運用。 台湾戸籍法に基づき、地域ごとに戸政事務所が運用。
住民登録との関係 住民基本台帳制度が別途存在し、戸籍とは独立して住民の住所情報を管理。 戸籍に基づいて住民登録が行われ、住所情報や国民身分証の発行に関連する。
改姓・改名の自由度 改姓は基本的に婚姻や養子縁組に限定。改名は一定の要件を満たした場合のみ許可。 改姓や改名は比較的柔軟で、法的手続きが簡便。
戸籍情報の閲覧 戸籍謄本の請求は本人や法定代理人などに限定され、個人情報保護が厳格。 親等関係の確認や相続のための抄本提供が中心で、場合によっては情報提供が制限されることがある。
外国籍者の扱い 外国籍者は戸籍制度に含まれず、住民基本台帳で管理。 外国籍者が台湾に居住する場合も、戸籍制度の対象外となり別の管理システムを利用。
記録の対象 個人の出生から死亡までの身分事項を記録。 戸全体の構成員に加え、共同事業に属する構成員も記録対象となる。

上記から分かるように、台湾の戸籍は住所の記録も兼ねています。そのため、台湾に居住したことがなければ、台湾国籍であっても台湾の戸籍も存在しないということになります。こうしたことが台湾国籍の人の相続関係を複雑にしています。

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