Last Updated on 2025年1月30日 by 渋田貴正

国際的な取引を行う場合で、租税条約による源泉所得税等の減免を受けようとしたときに、「特典条項に関する付表」という書類の添付が必要になるケースがあります。この「特典条項」とは何なのかについて説明します。

「特典条項」とは、租税条約の適用を受けるにあたって、その適用を受けようとして租税条約に関する届け出を提出している者が本当に取引主体なのかを確認するための租税条約上の条文です。本来、租税条約は、二国間で二重課税を回避し、脱税を防ぐために締結されるものです。しかし、租税条約の優遇措置が本来対象とならない第三国の企業に悪用される可能性があります。そこで、多くの租税条約には「特典条項」が設けられ、本当に条約の恩恵を受けるべき企業や個人に限定する仕組みが作られています。

「特典条項」とは、租税条約の「特典」を受けられるかどうかを判断するための租税条約上の「条項」ということです。OECDモデルの租税条約では29条が特典条項となっています。

例えば、日本企業がシンガポールに子会社を設立し、その子会社が米国の企業から配当を受け取る場合を考えます。

  • 特典条項がない場合
    • シンガポール子会社が単なる「中継会社」になり、日本企業が低税率の恩恵を受けられるよう操作できる。
  • 特典条項がある場合
    • シンガポール子会社が「実質的な事業活動」を行っていなければ、米国の配当に関する軽減税率の適用を受けられない。

このように、租税条約の特典条項は、租税条約における税の優遇措置が適正に運用されるようにするための仕組みなのです。

特典条項の構成

特典条項は租税条約の中でも結構長い条文になっています。簡単に区分すると以下のように構成されています。

特典条項の種類 英語名(略称) 目的 内容 適用基準・ポイント OECDモデル租税条約 第29条の条項
限定的租税負担者条項 Limitation on Benefits Clause (LOB 条項) 租税条約の恩恵を、条約締結国の「実質的な居住者」に限定する。 条約の特典を受けられる対象を明確にし、第三国の企業が租税回避目的で利用するのを防ぐ。 – 一定割合以上の株主が条約締結国の居住者である企業のみ特典を受けられる。
– 主に条約国で事業活動を行っている企業が対象。
第29条 第1~8項(各国が選択的に導入可能)
主たる目的テスト Principal Purpose Test (PPT 条項) 租税条約の恩恵を受けることが主目的の取引・企業を排除する。 租税回避を目的とする取引に対し、税制上の優遇措置を適用しない。 – 条約の恩恵を受けることが「主たる目的」の一つである場合、税制上の特典を否認できる。
– 実態のない企業形態や取引が排除される。
第29条 第9項(PPT条項)
実体要件 Substance Requirement 実質的な経済活動のないペーパーカンパニーの排除。 企業の実態が租税条約の特典を受けるのに適しているかを判断する。 – 事業活動の拠点があるかどうかが重要。
– 書類上だけの会社(ペーパーカンパニー)は適用対象外。
PPT条項とLOB条項の組み合わせで適用
ベネフィシャルオーナー要件 Beneficial Ownership Requirement 租税回避目的の「名義上の受取人(代理人)」を排除。 実際の受益者(ベネフィシャルオーナー)のみ租税条約の特典を受けられる。 – 受益者が実質的に所得をコントロールしているかが重要。
– 中間会社を通じた租税回避行為を防ぐ。
主にPPT条項で規制(第29条 第9項)

租税条約に関する届出書を提出するときには、その実体性を確認するために特典条項に関する付表という書類の添付が求められることがあります。この特典条項の趣旨を理解していればその書類の意味も理解しやすいかもしれません。