Last Updated on 2025年1月31日 by 渋田貴正
年金を受け取っていた被相続人が亡くなった際、相続人が手続きすることの一つに「未支給年金の請求」があります。しかし、もし被相続人に借金があるなどの事情で相続放棄を検討することがあります。相続放棄をすることで、亡くなった人の財産を一切相続しないことを意味します。通常、相続財産には預貯金、不動産、株式などのプラスの財産だけでなく、借金や未払いの税金などマイナスの財産も含まれます。
一方で、被相続人の財産を消費してしまった場合には相続放棄ができなくなるという法律上の規定があります。そのため、未支給年金を受け取ることが財産の消費に該当して「相続放棄」ができなくなるのではないかという疑問を持つ人も少なくありません。今回は、未支給年金の請求と相続放棄の関係について説明します。
未支給年金とは?
未支給年金とは、年金受給者が亡くなった際、本来支給されるはずだった年金が未払いのままとなっているものを指します。これを、亡くなった人と生計を同じくしていた遺族が請求できる制度が「未支給年金制度」です。
国民年金法および厚生年金保険法に基づき、未支給年金の請求が可能な遺族の順位は以下の通りです。
配偶者
子
父母
孫
祖父母
兄弟姉妹
上記以外の三親等内の親族
この請求者は、亡くなった人と生計を同じくしていたことが条件となります。
(未支給年金)
年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。 (未支給の保険給付) 保険給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき保険給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の保険給付の支給を請求することができる。 |
未支給年金を受け取ると相続放棄はできなくなるのか?
結論から言うと、未支給年金を受け取ること自体が「相続の承認」にあたるかどうかが重要なポイントです。そのうえで注目すべきは、上記の条文の「自己の名で」という言葉です。
この条文から分かる通り、未支給年金は「相続財産」ではなく、亡くなった人と生計を同じくしていた遺族が固有の権利として請求できるものとされています。つまり、未支給年金は「遺族自身の権利」として受け取るものであり、法的には相続とは異なると考えられます。ちょうど、死亡保険金が相続財産ではなく遺族固有の権利として扱われて、死亡保険金の受領と相続放棄が関係ないのと同様です。
そのため、未支給年金を受け取ったからといって、直ちに相続放棄ができなくなるわけではありません。また、相続放棄をした後に未支給年金の請求を行うことも問題ありません。
未支給年金以外で注意が必要なケース
未支給年金は「相続財産」ではありませんが、他の年金や社会保険関連の給付金や、亡くなった人の預貯金を引き出した場合は、相続の承認とみなされる可能性があります。注意すべきポイントは以下の通りです。
項目 | 説明 |
---|---|
未支給年金以外の財産を受け取っていないか | 未支給年金の請求と同時に、亡くなった人の預貯金を引き出すと、「単純承認」とみなされる可能性があります。単純承認とは、相続財産を一部でも処分することで、相続を承認したと判断されることを指します。そのため、相続放棄を考えている場合は、未支給年金の請求以外の財産には手をつけないようにすることが重要です。 |
遺族年金との区別 | 遺族年金は、亡くなった人の年金を引き継ぐものではなく、遺族自身の権利として支給されるため、相続とは関係がありません。ただし、死亡退職金や弔慰金などは相続財産とみなされる場合があるため、相続放棄を考えている場合には注意が必要です。 |
死亡後の年金振込に注意 | 亡くなった人の年金が死亡後に振り込まれた場合、その年金を引き出してしまうと相続財産を受け取ったとみなされる可能性があります。未支給年金は正規の手続きを経て請求する必要があるため、安易に口座から引き出さないようにしましょう。 |
未支給の傷病手当金の受給に注意 | 被相続人が受給していた傷病手当金については、未支給年金のような「自己の名」で請求できる規定はありません。被相続人が受け取るべき傷病手当金を相続人が受け取ったら、相続の承認と判断される場合があります。同じ社会保険制度ですが混同しないようにしましょう。 |
相続放棄を考えている場合は、未支給年金の請求と並行して、他の財産に手をつけないよう慎重に対応する必要があります。
未支給年金は相続財産ではなく、遺族が固有の権利として請求できるものです。そのため、未支給年金を受け取ること自体は相続の承認にはなりません。しかし、預貯金の引き出しやその他の財産を処分すると、相続放棄が認められなくなる可能性があるため注意が必要です。
当事務所では、相続放棄をお考えの相続人様のための手続きを行っています。お気軽にご相談ください。
司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。