Last Updated on 2025年2月9日 by 渋田貴正

非上場会社が自己株式を取得する際、特に登記上必要な手続きはありません。株主構成が変わるとはいえ、発行済み株式の総数が変わるわけではないためです。議決権は変動しますが、議決権は登記事項ではありません。

ただし、税金の問題は発生する可能性があります。税務上の時価よりも高い価格で取得する場合には、税務上のさまざまな論点が発生する可能性があります。

取得する株式会社(発行株式会社)の税務上の取り扱い

発行法人が自己株式を時価よりも高い価格で取得した場合、原則としてその差額は法人の所得には影響しません。

譲渡者が法人の役員だったり、特別な関係者からの取得である場合は寄付金や役員賞与として差額を認識すべきという考え方もあります。この考え方は自己株式の取得以外の株式売買のケースとのバランスをとったものを考えられますが、確立された扱いではありません。

現状としては自己株式の高額買取りは買い取る株式会社側で課税関係は発生しない扱いです。

譲渡する株主の税務上の取り扱い

自己株式を譲渡する株主が法人か個人かによって、税務上の取り扱いが異なります。

(1) 法人株主の場合

交付された金額と自己株式の資本金等の額との差額は「みなし配当」として課税されます。

もう一つの考え方として、交付金額と時価との差額は「贈与」とみなされ、受贈益課税(法人税の課税対象)となる可能性があります。この場合のみなし配当の額は、株式の時価と発行株式会社の資本金等の額との差額ということになります。

(2) 個人株主の場合

交付された金額と資本金等の額との差額が「みなし配当」として課税されます。

もう一つの考え方として、交付金額と時価との差額については、それぞれ譲渡者の属性に応じて以下のように課税される可能性があります。

役員・従業員等の場合 給与所得
役員、従業員の退職に伴う取得の場合 退職所得
上記以外の場合 一時所得

この場合のみなし配当の額は、株式の時価と発行株式会社の資本金等の額との差額ということになります。

どちらの考え方で課税されるべきなのかについては顧問税理士に相談しながら慎重に確認することをオススメします。

具体例

以下の例で計算してみましょう。

項目 金額
交付金額 1,000
自己株式の時価 500
資本金等の額 400
株主の取得価額 100

原則的な計算方法(差額をみなし配当扱い)

  • みなし配当額 = 交付金額(1,000万円)− 資本金等の額(400万円) = 600万円
  • 株式譲渡益 = 資本金等の額(400万円)− 取得価額(100万円)= 300万円

もう一つの計算方法(差額を給与所得等として扱い)

  • 譲渡益(受贈益) = 交付金額(1,000万円)− 資本金等の額(500万円) = 500万円
  • みなし配当額 = 自己株式の時価(500万円)− 資本金等の額(400万円) = 100万円
  • 株式譲渡益 = 資本金等の額(400万円)− 取得価額(100万円)= 300万円

このように、みなし配当や譲渡益の算出において、実際の交付金額だけでなく、自己株式の時価や資本金等の額も考慮されるため、正確な計算が求められます。

他の株主への影響

更に注意しておく必要があるのは、他の株主への影響です。自己株式の取得に応じていない株主にも影響が及ぶ可能性があります。

特定の株主のみから時価よりも高い価格で自己株式を取得する場合、他の株主の株式価値を減額させるため、その減額した分だけ他の株主から自己株式を買い取ってもらった株主への経済的利益の移転とみなされることがあります。このような場合、株主間で課税関係が生じる可能性があるため、慎重な対応が必要です。