Last Updated on 2025年2月11日 by 渋田貴正

中国にいる相続人の所在調査について

相続に関する相談の中には、相続人が海外に居住しているために手続きが難航するケースがあります。特に、中国に帰国した相続人で、住所が分からない人がいる場合、その所在を調査する場合、日本とは異なる法律や慣習が影響するため、注意が必要です。日本のように戸籍の附票などから住所が追えるシステムが存在せず、また画一的な方法が存在しない、国土が広いなどさまざまな点で日本とは比較にならない困難さがあります。本記事では、中国にいる相続人の所在調査の方法について、一般的な観点から解説します。

中国に帰国した相続人を探すには?

相続手続きを進めるためには、相続人の所在を把握し、協議を行う必要があります。例えば、兄弟相続で兄弟のうち一人が中国籍だったり中国に帰化したりした場合などのケースも考えられます。その相続人が日本に住んでいればよいのですが、その後、中国へ帰国したケースでは、相続手続きのために本人と連絡を取る必要があります。しかし、連絡がつかない場合、どのように所在を確認すればよいのでしょうか。

中国での所在調査の方法

中国では、日本と異なり、個人情報の管理が厳しく、相続人の所在を特定するには慎重な手続きが求められます。具体的な方法として、以下のような手段が考えられます。

方法 説明
律師(弁護士)への依頼 中国にも日本の弁護士に相当する「律師」がおり、依頼を受けて所在調査を行うことができます。ただし、律師の調査権は十分に尊重されておらず、個々の能力や人脈に依存する面が大きいため、依頼前に調査方法や報酬基準を確認することが重要です。
公安局や人民委員会への照会 中国では、「戸口(戸籍)」や「居民身分証」の登録管理機関が公安局派出所や郷鎮の人民委員会にあり、律師を通じて照会することが可能です。しかし、実際には、情報開示に対する意識が低く、開示を拒否されるケースもあります。
現地の有力者を通じた調査 共産党の幹部や公安局に知人がいる有力者が調査を行うと、律師に依頼する以上の結果が得られる場合があります。人脈が重要視される中国社会において、この方法が効果的な場合もあります。

日本国内での所在調査の方法

日本国内でも、一定の方法で中国に帰国した相続人の情報を調査することが可能です。

相続人の国籍 調査方法
日本人 – 被相続人の本籍地や住所が判明していれば、弁護士や司法書士が職務上請求により戸籍謄本や戸籍の附票を取得し、相続人の住所を調査できる。
– 外務省領事局海外邦人安全課に依頼して所在を確認することも可能。
– 現地の日本人会や県人会に照会することも有効な手段。
中国人 – 律師を通じて中国の戸籍情報(戸口)を照会することが可能。
– 日本国内の知人や親族を通じて、中国に帰国した相続人の情報を得ることができる場合もある。
中国における律師の調査権とその限界

中国では「律師法」第35条により、律師は依頼を受けた案件について証拠収集や調査を行うことができます。しかし、実際には以下のような課題があります。

  • 公安機関や役所の職員が法律意識に乏しく、律師の調査権を十分に理解していないこと。
  • 個人情報の開示に慎重で、法律上可能であっても情報提供を拒むケースがあること。
  • 中国国内の律師の能力や報酬基準が幅広く、依頼しても期待した結果が得られないこともある。

2017年の「新華社」の報道によると、中国国内の登録律師は30万人を超え、法律事務所は2万5000余り存在します。しかし、実際には経験や能力に差があるため、適切な律師を選定することが重要です。

依頼先を選ぶ際の注意点

相続人の所在調査を成功させるためには、依頼先の選定が重要です。以下の点に注意して依頼を行いましょう。

  • 律師に依頼する場合
    • 旅行代理店の通訳やガイドを通じて、調査方法や報酬基準を事前に確認する。
    • 大手法律事務所のパートナー弁護士が対応するとは限らず、実務は新人や補助者が担当することがあるため、依頼内容をしっかり確認する。
  • その他の方法
    • 中国に詳しい知人や現地にコネクションのある人を通じて情報収集する。
    • 中国の現地調査を専門とする会社や探偵事務所を利用する。

中国に帰国した相続人の所在調査は、日本国内での調査に比べて困難を伴うことが多く、慎重な対応が求められます。律師に依頼することは一つの手段ですが、情報開示の制約や律師の能力のばらつきに注意が必要です。また、共産党の幹部や公安関係者との人脈を活用することも有効な方法とされています。

相続手続きを円滑に進めるためには、適切な調査手段を選択し、信頼できる専門家に相談することが重要です。