Last Updated on 2025年2月16日 by 渋田貴正
確定申告をした後に「申告内容に誤りがあった」「税金を払いすぎていた」と気づいた場合、更正の請求(こうせいのせいきゅう)という手続きをすることができます。これは、所得税の計算に誤りがあり、税金を本来よりも多く納めてしまった場合に、正しい金額に修正し、還付(払いすぎた税金の返金)を受けるための制度です。
しかし、ここで注意すべき点があります。それは、「所得税の更正の請求をしても、その内容は住民税には自動的に反映されない」ということです。つまり、所得税の金額が変わった場合、住民税の計算も変わる可能性があるにもかかわらず、それが自治体に自動で伝わらないため、別途住民税の申告が必要になるケースがあるのです。
所得税の確定申告をすれば住民税の申告は不要
まず、基本的なルールとして、所得税の確定申告をすれば、住民税の申告は不要です。これは、地方税法の規定によるもので、所得税の確定申告をした人は、その情報が自治体に送られるため、住民税の計算に使われるからです。
地方税法
第45条の3 第二十四条第一項第一号の者が前年分の所得税につき所得税法第二条第一項第三十七号の確定申告書(以下本条において「確定申告書」という。)を提出した場合(政令で定める場合を除く。)には、本節の規定の適用については、当該確定申告書が提出された日に前条第一項から第四項までの規定による申告書が提出されたものとみなす。ただし、同日前に当該申告書が提出された場合は、この限りでない。 所得税法 第2条 |
上記のように、「所得税の確定申告を提出した場合、その申告をもって住民税の申告をしたものとみなす」と定められています。そのため、通常であれば確定申告をした人が、住民税のために別途申告をする必要はありません。
更正の請求をすると住民税の申告が別途必要になる理由
しかし、更正の請求をすると話は別です。
更正の請求とは、「過去に提出した確定申告の内容が間違っていて大目に税金を払ってしまったので、正しい内容に直してください」と税務署に申し出る手続きです。これにより、所得が減ることで税額が少なくなり、結果的に還付を受けられることがあります。
ところが、所得税の修正が認められても、その情報をもって自動的に住民税の更正が行われるわけではありません。つまり、住民税の計算に変更が必要な場合でも、自治体はそのことを知る手段がないため、住民税の金額は修正されないのです。
上記の条文では「確定申告書」を提出した場合に住民税の申告書を提出したものとみなす、となっています。そして、「確定申告書」と「更正請求書」は所得税法では厳密に区分されています。つまり、「更正請求書」を税務署に提出してもその内容が住民税の申告には反映されないということになります。したがって、所得税の更正の請求をした人は、住民税の計算が変わる可能性があるため、自治体にも修正申告をする必要があるのです。
住民税の更正請求が必要な具体的ケース
住民税の申告が必要となるのは、具体的には次のような場合です。
1. ふるさと納税を後から追加した場合
ふるさと納税は、確定申告をすることで「寄付金控除」として適用され、住民税の減額につながります。しかし、確定申告後にふるさと納税を追加で行った場合、もともとの申告にはその寄付額が反映されていません。
この場合、所得税の更正の請求をしてふるさと納税の控除を追加すると、所得税の還付が発生します。しかし、住民税の計算には自動的に反映されないため、住民税の修正申告を行わなければなりません。これを怠ると、本来受けられるはずの住民税の控除を適用できず、税金を払いすぎてしまう可能性があります。
2. 医療費控除の追加申告
確定申告をした後に、医療費控除の計算ミスや漏れがあったことに気づいた場合、所得税の更正の請求を行うことで、所得税の還付が受けられることがあります。医療費控除を適用すると、所得税の課税所得が減るため、住民税の課税所得も減り、住民税の負担が軽くなる可能性があります。
しかし、更正の請求による変更内容は住民税に自動反映されないため、自治体に対して修正申告を行わないと、住民税の控除が適用されないことになります。
配偶者控除や扶養控除の適用漏れ
確定申告の際、配偶者控除や扶養控除を適用し忘れていた場合、更正の請求を行うことで、所得税の課税所得が減り、税額も少なくなります。しかし、この変更も住民税には自動で反映されません。
例えば、扶養控除を適用し忘れた結果、本来よりも多く所得税・住民税を払っていた場合、所得税は更正の請求によって還付されますが、住民税は修正申告をしなければそのままになってしまいます。
上記は所得控除の関係ですが、例えば事業所得で減価償却費が漏れていたなどのケースも更正の請求の対象となります。
住民税の修正申告の方法
では、実際に住民税の修正申告をするにはどうすればよいのでしょうか?基本的な流れは次のとおりです。
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自治体に確認する
まず、自分の住んでいる自治体の税務課に問い合わせ、住民税の修正申告が必要かどうか確認しましょう。 -
必要な書類を準備する
- 住民税の修正申告書(自治体のホームページからダウンロードできることが多い)
- 所得税の更正の請求書の控え(税務署に提出したもの)
- 確定申告の修正後の内容が分かる書類
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自治体に申告する
住民税の修正申告書と必要書類を、住んでいる市区町村の役所に提出します。郵送やオンラインでの対応が可能な場合もありますので、自治体のホームページで確認してみましょう。
所得税の更正の請求を行った場合、どれだけ待っていてもその変更内容は住民税には自動的に反映されません。そのため、税務署に更正請求書を提出した後は、自治体に問い合わせて住民税の更正手続きも速やかに行いましょう。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。