Last Updated on 2025年2月17日 by 渋田貴正

相続が発生すると、不動産を相続するケースは少なくありません。特に賃貸物件を相続した場合、賃料の管理や滞納が問題になることがあります。

賃貸人が亡くなった場合の基本的な考え方

賃貸物件の所有者が亡くなった場合、その賃貸人の地位(権利や義務)は相続人に引き継がれます。 相続人が複数いる場合、賃貸物件は相続人全員の共有財産となります。

(共同相続の効力)

民法 第898条
  1. 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

したがって、遺産分割協議が成立するまでは。相続人は共同で賃貸借契約を管理することになります。

相続した賃貸物件の管理に関する基本ルール
賃貸借契約の継続 相続開始後も契約は有効で、賃借人(借主)は引き続き住むことができる。
賃料の受取 相続人が相続分に応じて受け取ることができるが、未分割の間は代表者が管理することが望ましい。
修繕義務 相続人全員が負担する。ただし、代表者を決めて対応することが一般的。
相続人間の合意 物件の管理や賃料の分配については、相続人全員の合意を得ることが重要。事前に管理方針を決めることで、トラブルを防ぐことができる。
代表者の選定 賃貸借契約の管理や賃料回収を円滑に進めるため、代表相続人を選ぶことが推奨される。代表者が窓口となり、賃借人とのやり取りや契約更新を行う。
賃料の管理口座 相続財産の分配が確定するまでは、賃料を専用の口座に保管し、相続人間のトラブルを避ける工夫が必要。
法律専門家の活用 賃貸借契約に関する疑問やトラブルが発生した場合は、弁護士や司法書士に相談し、適切な対応を取ることが望ましい。
遺産分割協議前に賃料滞納が発生した場合の対応

相続した賃貸物件で遺産分割協議が成立する前に賃借人が賃料を滞納している場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

(1) 滞納賃料の請求方法

賃料債権は金銭債権であり、可分債権とされています。そのため、未払賃料は相続分に応じて各相続人に分割されます。ただし、実務上は以下のような対応が必要です。

  1. 相続人間で代表者を決める
    • 代表者が滞納賃料の請求を行うことで、手続きがスムーズになります。
    • 代表者が賃料を管理し、遺産分割後に清算する形が一般的です。
  2. 賃借人に対して支払いを求める
    • 通常、書面(内容証明郵便)で支払請求を行います。
    • 遅延損害金を含めた請求を行うことも可能です。
  3. 法的措置の検討
    • 賃料が長期間未払いの場合、裁判所を通じた強制執行も検討します。
相続物件の多淫貸借契約の解除方法

滞納が続く場合、賃貸借契約の解除を検討することも必要です。

(1) 解除の条件

民法では、賃借人が賃料を支払わない場合、貸主(相続人)が契約解除を行うことができるとされています。ただし、以下の点に注意が必要です。

  • 契約解除には 相続人の過半数 の同意が必要。(例えば相続人が4人いる場合、3人以上の同意があれば解除できる。)そのため、いくら相続人が単独で解除したいと思っても、遺産分割協議が成立するまでは、相続人の過半数の同意がないと解除できないということになります。

    共有物の管理)

    民法 第252条
    1. 共有物の管理に関する事項(次条第1項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第1項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。) は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
  • 通常、まず催告(支払期限を通知)を行い、それでも支払われない場合に解除を実行します。

(2) 解除手続きの流れ

ステップ 内容
1. 内容証明郵便を送る 期限までに支払わなければ契約解除すると通知。
2. 支払いがなければ解除通知 相続人の過半数の同意のもとで、契約解除の意思を示す。
3. 退去請求 賃借人に対し、退去を求める。
4. 必要なら裁判手続き 賃借人が退去しない場合は、裁判所の手続きを利用する。

相続した賃貸物件の管理は、相続人間の調整や賃借人との交渉が必要になります。特に、賃料の滞納がある場合は、

  • 相続人間で代表者を決める
  • まずは賃借人に支払いを求める
  • 必要なら契約解除を検討する

といった手順で対応するのが一般的です。