Last Updated on 2025年3月21日 by 渋田貴正
ご家族が海外で亡くなり、相続財産には多額の負債があると分かった場合、相続放棄をすることで負債の引き継ぎを回避できます。しかし、海外で相続放棄の手続きをしたとしても、それが日本国内でも有効なのかどうか分からず、不安に感じる方も多いと思います。今回は、そうした人のために海外での相続放棄の効力について説明します。
国際相続と国際裁判管轄
相続が発生した場合、被相続人の国籍や居住地によって相続手続きの管轄が決まります。日本の法律(家事事件手続法)によれば、被相続人が亡くなった時点で日本に住所があった場合、日本の家庭裁判所が相続放棄や限定承認の申述を受理する管轄権を有します。つまり、被相続人が外国籍であっても、日本に最後の住所を持っていた場合は、日本の裁判所で相続放棄の手続きを進めることが可能です。
裏を返せば、被相続人が亡くなったときに海外に住んでいた場合や、財産が主に海外にある場合は、その国の法律が適用されることになります。そのため、相続人がその国の法律に従って相続放棄を行った場合、日本国内でその効力が認められるかどうかが問題となります。
渉外相続の準拠法
日本の「法の適用に関する通則法」第36条では、相続に関する準拠法は原則として「被相続人の本国法」に従うと定められています。したがって、外国籍の被相続人の相続については、その国の相続法が適用され、そもそも相続放棄ができるかということや相続人の範囲や相続の手続きの詳細もその国の法律によることになります。
ただし、同法第41条では「反致」が認められています。これは、被相続人の本国の国際私法が日本法を準拠法として指定している場合、日本法が適用されることを意味します。例えば、被相続人の本国法が「相続は被相続人の最終居住地の法律に従う」と規定している場合、日本の法律が適用される可能性があります。
海外で行った相続放棄の日本国内における効力
仮に相続人が海外の裁判所で相続放棄を行い、それが現地法に基づいて正式に認められた場合、日本国内でその効力が認められるかどうかは、ケースバイケースです。
日本の家庭裁判所で相続放棄の申述が受理された場合、それが直ちに海外で効力を持つわけではないのと同様、海外での相続放棄が日本国内で無条件に認められるとは限りません。特に、日本においても相続財産が存在する場合、日本の裁判所に対して改めて相続放棄の手続きを行う必要があることがあります。
また、日本の裁判所が海外の相続放棄の効力を認めるかどうかは、以下のような要素が影響します。
渉外相続に関する裁判例
実際に、日本の裁判所では渉外相続に関する様々な判断が下されています。
例えば、東京家裁平成11年10月15日決定では、日本国内に住所を有していたニュージーランド国籍の被相続人について、日本の法律を準拠法とし、相続放棄の申述を受理しました。一方、東京高裁昭和62年10月29日決定では、西ドイツ人の被相続人の相続放棄申述について、西ドイツ法を適用し、相続放棄の期間が経過しているとして申述を却下しました。
このように、相続放棄の可否は被相続人の本国法や具体的な事実関係によって判断されるため、慎重な対応が必要です。
海外で行った相続放棄が日本国内で有効となるかどうかは、被相続人の本国法や反致の適用、日本の公序良俗との関係など、多くの法的要素が絡みます。したがって、相続放棄を検討する際は、単に一国の制度だけでなく、国際的な法的枠組みを踏まえた慎重な対応が求められます。
当事務所では、渉外相続に関する専門知識を活かし、相続放棄や限定承認を含む相続手続きについて適切なサポートを提供しております。海外に関わる相続問題でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。皆様の状況に応じた最適な解決策をご提案いたします。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。