Last Updated on 2025年3月23日 by 渋田貴正

自己株式とは?

自己株式とは、株式会社が自ら取得して保有している自社の株式のことを指します。たとえば、ある株主から会社が自社の株式を買い戻す場合、その株式は「自己株式」となります。

本来、株式は他者が保有していることを前提とし、株主が会社の意思決定に関与する権利(議決権)などを持ちます。しかし、自己株式は会社が保有するため、議決権を持たず、配当の対象にもなりません。多少粗い言葉を使えば「使えない株式」となりますが、実際にはさまざまな戦略的な活用が可能です。

自己株式=金庫株

自己株式は「金庫株(トレジャリー・ストック)」とも呼ばれ、将来的な株式の再発行や第三者への譲渡、従業員持株会への割当、新株予約権の交付など、柔軟な資本政策に活用されます。

たとえば、会社がM&A(合併・買収)を行う際に、対価として自己株式を活用することができます。完全親会社が完全子会社の株主に自己株式を交付するようなケースは、非常に実務的な利用例の一つです。

自己株式の取得手続き

現在の会社法では、以前よりも自己株式の取得が柔軟にできるように規制が緩和されています。

まず、株主総会での決議によって、取得する株式の種類、数、取得総額、取得期間などを定め、その範囲内で会社は自己株式を取得できます。この決議は、定時株主総会だけでなく、臨時株主総会でも行えるため、機動的な取得が可能になりました。

ただし、自己株式の取得にあたっては「財源規制」があります。つまり、会社の利益剰余金などの「分配可能額」の範囲内でしか自己株式を取得することができないため、資金繰りや財務体質への影響を十分に考慮する必要があります。

また、株主全員から株式を取得する場合と、特定の株主から取得する場合とで、必要な株主総会の決議の種類(普通決議か特別決議か)が異なる点にも注意が必要です。

自己株式の処分と自己株式の消却

取得した自己株式は、再度市場に売却する(処分)ことができますし、完全に会社の中で消してしまう(消却)ことも可能です。

処分については、新株発行と実質的に同じ効果があるため、株主総会の特別決議や、定款による取締役会の決議が必要となることがあります。たとえば、第三者割当による資金調達や、従業員へのストックオプションとしての付与などに活用される場面があります。

一方、消却とは、会社の資本構成をスリム化する手続きであり、会社の発行済株式総数を減らすことになります。これは、取締役会の決議で行うことができ、特別決議を要しません。

自己株式のメリットとリスク

自己株式を活用するメリットとしては、以下のような点が挙げられます。

  • 敵対的買収の防止(会社が株式を市場から買い戻して、他者に支配されにくくする)

  • 1株あたりの利益(EPS)を向上させる

  • 株価の下支え効果

  • 将来的な資金調達やインセンティブ制度への活用

一方で、自己株式を過度に取得すると、会社のキャッシュが減少し、経営の健全性を損なうリスクもあります。また、自己株式の取得や処分には、厳密な手続きが必要であり、誤った運用は株主間の不公平やトラブルを招きかねません。

自己株式に関する登記手続き

自己株式の「取得」そのものについては、商業登記の対象とはなりません。つまり、会社が自己株式を取得しても、法務局への登記申請は不要です。

しかし、自己株式の処分(譲渡)や消却を行った場合には、内容によっては登記が必要になります。具体的には以下のようなケースです。

自己株式の処分によって発行済株式総数が変動した場合

自己株式を第三者などに譲渡する際に合わせて新株を発行して発行済株式総数が増加する場合は、その増加を登記する必要があります。この場合、「発行済株式総数の変更登記」が必要です。

自己株式を消却した場合

自己株式を消却すると、発行済株式総数が減少するため、こちらも「発行済株式総数の変更登記」が必要です。さらに、取締役会設置会社では、取締役会決議によって消却されるため、議事録等の添付書類が求められます。

◼ 登記申請のポイント

  • 登記の申請期限は、変更があった日から2週間以内です。

  • 添付書類として、株主総会議事録や取締役会議事録、資本金の額に変更がある場合は計算書類なども必要になることがあります。

自己株式の取得や処分には、会社法の知識と実務上の判断が求められます。また、株主総会の開催、議事録の作成、定款の確認など、正確かつ迅速な法務対応が不可欠です。

自己株式の取得や活用についてお悩みの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。会社の現状に応じた最適なアドバイスと手続サポートを、司法書士の立場からご提供いたします。