Last Updated on 2025年3月23日 by 渋田貴正
自己株式とは?
「自己株式」とは、会社が自ら取得し、保有している自社の株式をいいます。たとえば、株主から会社が株式を買い取った場合などが該当します。会社法上、自己株式は消却しない限り会社が保有し続けることができますが、重要な点として「自己株式には議決権がない」ことが定められています。
(議決権の数)
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つまり、会社が持っている自社株式は、たとえ保有していても「議決には一切関与しない株」となるわけです。株主総会は会社の行く末を決める場です。会社自身のことを決めるので、会社自身が自分で自分に投票することはできないというわけです。
したがって、株主総会で議案を可決する際には、自己株式分を除いて「議決権の総数」を計算しなければなりません。
株主総会議事録における具体的な記載方法
自己株式を保有している会社が株主総会を開催する際には、議事録の中に以下のような記載が必要になります。
<記載例>
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議決権を有する株主の議決権の総数 800個(自己株式200株を除く)
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出席株主の議決権の数(委任状によるものを含む) 600個
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議案ごとの賛否の結果
第1号議案 定款変更の件 賛成600個、反対0個
よって本議案は可決された。
ここで重要なのは、「議決権を有する株主の議決権の総数」として、自己株式分を除いた数値を記載することです。間違って自己株式を含めた数を記載してしまうと、形式的には過半数を超えていても、実質的には否決となる可能性があります。これは、将来的に株主とのトラブルや法的無効を主張されるリスクにつながります。
また、「株式数」ではなく「議決権数」で記載することも見落とされがちなポイントです。特に、1株=1議決権ではない場合(たとえば種類株式を発行している会社など)は、慎重に計算を行う必要があります。
登記との整合性も重要
株主総会議事録は、役員変更や定款変更などの登記手続きにおいて添付書類として提出される重要な書類です。法務局は議事録の形式や内容にも注意を払っており、登記された発行済み株式総数と株主総会議事録の議決権数の不整合、「議決権総数」や「賛否の数値」に疑義がある場合は、補正を求められることも少なくありません。
たとえば、議決権総数に自己株式分が含まれていた場合、「議決要件を満たしていないのでは?」と判断されることになり、株主総会議事録の作り直し野菜提出を求められることもあります。登記の遅延は、実務上も信用面でも悪影響を及ぼすため、最初から正確な株主総会議事録の作成が不可欠です。
自己株式は会社の資本政策の一環として取得されることもあり、意図的に保有されているケースも少なくありません。にもかかわらず、議事録の記載においてその存在を見落としてしまうと、後の手続きに思わぬ支障を来すことになります。
特に中小企業や同族会社では、「株式の持ち主は自分たちだけだから」という安心感から、形式面が疎かになりがちです。しかし、会社としての正式な手続きを行う以上、形式面も法律に基づいて整えておく必要があります。
株主総会議事録は、会社の意思決定を文書として残す法的に重要な書類です。自己株式を保有している場合は、その分の議決権を除いて記載しなければならないことを忘れずに、正確かつ形式に則った記録を心がけましょう。
自己株式の処理や株主総会議事録の記載には、法的な知識と正確な判断が求められます。当事務所では、会社の実情に応じた適切な議事録作成や登記のサポートを行っております。少しでもご不安な点があれば、お気軽にご相談ください!

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。