Last Updated on 2025年3月26日 by 渋田貴正
「包括遺贈」とは?まずは基本の確認
まず、「包括遺贈」とは何かを押さえておきましょう。
項目 | 内容 |
包括遺贈 | 遺産の全部または一定の割合を与える遺贈のこと。たとえば「全財産の1/2をAに遺贈する」というような形です。 |
特定遺贈 | 特定の財産(例:○○銀行の預金、○○市の土地など)を指定して与える遺贈です。 |
包括遺贈を受けた人を「包括受遺者」と呼びます。包括受遺者は、相続人と同じように権利義務を引き継ぐ立場になります。
(包括受遺者の権利義務)
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上記のように包括受遺者は、遺産全体の割合を引き継ぐという意味で法定相続人と同視できます。そのため、相続人と同じく遺贈の「承認」や「放棄」ができるのです。
包括遺贈を放棄したいときは、どうすればいい?
遺言で包括遺贈を受けたけど、引き継ぎたくない。包括遺贈は遺産を「まるごと」あるいは「割合で」受け取るものです。そのため、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(借金など)も含まれる可能性があるため、場合によっては放棄を選ぶことが重要になります。
ケース | 状況 | 包括遺贈の放棄の理由 | 結果 |
---|---|---|---|
① 借金まみれの遺産 | 財産はなく、1,000万円以上の借金があった | 財産より借金が多く、引き継ぐと大きな負担になるため | 家庭裁判所に放棄を申述し、借金を免れる |
② 遠縁からの突然の遺贈 | 面識のない親戚から包括遺贈された | 財産の内容が不明で、負債やトラブルがあるかもしれないため | 安全策として放棄。相続人に遺産が戻る |
③ 介護していない弟に遺贈 | 介護していない弟に全財産の包括遺贈があった | 実際に世話をしていた兄との関係を考慮。遺産にもリスクがあった | 放棄により兄に財産が帰属。争いを回避 |
包括遺贈を放棄したい場合は、「相続放棄」と同じルールが適用されます。つまり、家庭裁判所に対して「放棄の申述」を行う必要があるのです。「法定相続人ではないから遺言を無視すればよい」というわけにはいかないということです。
包括遺贈の放棄の申述のルール
項目 | 内容 |
期間 | 被相続人の死亡および遺贈を知ってから3か月以内(熟慮期間)に申し出る必要があります。 |
方法 | 家庭裁判所に「放棄の申述書」を提出し、受理される必要があります。 |
注意点 | 期間を過ぎたり、遺産を勝手に使ってしまうと、「単純承認(放棄できない)」とみなされます。 |
包括遺贈の放棄と相続放棄の違い
では、相続放棄と包括遺贈の放棄には、どのような違いがあるのでしょうか?
項目 | 相続放棄 | 包括遺贈の放棄 |
放棄できる人 | 法定相続人 | 包括受遺者 |
法的性質 | 相続人としての地位そのものを失う | 遺言によって指定された受遺者の地位を失う |
手続き方法 | 家庭裁判所に申述 | 家庭裁判所に申述 |
つまり、包括遺贈は一見「ありがたい贈り物」のようですが、負債やトラブルが含まれている可能性もあるため、相続放棄と同じように慎重に判断すべきなのです。
包括遺贈の放棄の効力
包括遺贈を放棄すると、その人は遺贈を一切受け取れなくなります。そして、その遺産は、原則として相続人に帰属します。
例えば、「全財産をAに包括遺贈する」という遺言があって、Aが放棄した場合、特に他に遺贈の指定がなければ、Aが受けるはずだった財産は法定相続人に戻ります。
また、以下のようなケースもあります:
- 複数の包括受遺者のうち一人が放棄しても、その分が他の受遺者に増えるわけではなく、相続人に戻る
- 放棄された分を別の人に渡したい場合は、あらかじめ「予備的遺贈」(例:「Aが放棄した場合はBに渡す」)を記載しておく必要がある
包括遺贈の放棄は、相続と同様に非常にデリケートで法的な判断が必要となる手続きです。放棄できる期間はたったの3か月。うっかり期限を過ぎてしまえば、遺産だけでなく借金まで背負うことになりかねません。また、包括遺贈の放棄の手続きにおいては、申述書の内容や添付書類、場合によっては予想外の審問(裁判所での説明)が求められることもあります。そのため、早めの対応と専門家への相談が大切です。
当事務所では、包括遺贈や相続放棄に関するご相談を多数お受けしており、家庭裁判所への申述書の作成から提出までしっかりサポートしております。少しでも不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。