Last Updated on 2025年3月29日 by 渋田貴正

特定遺贈とは、遺言によって「土地」「建物」「株式」など特定の財産を個別に受け取る人(受遺者)が指定されているケースです。しかし、遺贈された財産を必ずしも受け取る義務はなく、「放棄する」という選択肢もあります。

特定遺贈の放棄とは?

特定遺贈を放棄するとは、遺言で指定された財産を「受け取りません」と意思表示することです。この意思表示は、遺言者が亡くなった後であれば、いつでも可能です。特定遺贈放棄には期限がなく、家庭裁判所の相続放棄の手続きも不要です。

放棄の方法については、書面での明確な意思表示が望ましいですが、黙示でも放棄と認められる場合があります。

例えば、以下のようなケースが該当すると考えられます。

ケース 財産の種類 放棄の相手方 放棄の結果
地方の老朽化した空き家を遺贈されたが、修繕費や固定資産税が高く、売却も困難であったため 空き家(不動産) 遺言執行者 維持・税金等の経済的負担を回避できた
自分だけに高額不動産が遺贈され、他の兄弟の遺留分を侵害する恐れがあったため 高額不動産 相続人 トラブルを回避し、兄弟間の遺産分割協議が円滑に進んだ
遺言で500万円を遺贈されたが、自分も相続人として全体の遺産分割に関わりたかったため 金銭 相続人(遺贈義務者) 放棄により相続人として遺産分割協議に参加できた
自分には不動産の管理能力がなく、包括遺贈者にまとめて任せた方が合理的だと考えたため 不動産 遺贈義務者 包括受遺者が引き継ぐことで相続処理が簡潔になった
借家人とのトラブルや滞納賃料を抱えるアパートが遺贈され、手間とリスクを避けたかったため 問題のある賃貸アパート 相続人 法的・経済的なリスクを回避できた
特定遺贈の放棄の手続きと相手方

特定遺贈の放棄は「意思表示」で足りますが、誰に伝えるかが重要です。

放棄の相手方 遺贈義務者(遺言執行者または相続人)
方法 書面・口頭でも可。ただし書面が望ましい
黙示の放棄 内容によっては成立することがある(例:遺言内容と異なる遺産分割協議に同意)
放棄の効果 相続開始時(=遺言者死亡時)に遡って効力発生
放棄しないときのリスクと催告制度

特定遺贈には放棄の期限がないため、相続人や利害関係人が困るケースもあります。たとえば、受遺者がなかなか承認・放棄の意思表示をしないと、不動産の登記や相続手続きが進まず、関係者全体が不安定な状況に置かれることがあります。

そこで法律では、「利害関係人」が受遺者に対し、一定期間内に意思表示をするよう催告できる制度を認めています。期間内に何の返答もない場合、自動的に「承認した」とみなされます。

(受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告)
民法 第987条
遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下この節において同じ。)その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす
放棄後の財産はどうなる?

受遺者が特定遺贈を放棄した場合、その財産の帰属先は以下のようになります。

状況 帰属先
遺言で別段の定めがない 相続人全員による遺産分割協議の対象となる
包括遺贈者がいる 包括受遺者に帰属する場合が多い

また、不動産の特定遺贈を受けて、そのうち2分の1だけを放棄するといったように部分的な放棄も可能です。

特定遺贈包括遺贈の放棄の違い

誤解されやすいのが「包括遺贈の放棄」との違いです。以下の表に整理しました。

比較項目 特定遺贈の放棄 包括遺贈の放棄
放棄の期限 なし 原則3か月以内(相続放棄と同様)
手続き先 遺贈義務者 家庭裁判所
書式 書面が望ましいが任意 家庭裁判所に提出する正式な書式が必要
効力発生時期 相続開始時に遡る 相続開始時に遡る
放棄の効果 放棄した財産のみ対象 包括的にすべての財産が対象

放棄する前に確認すべき3つのポイント

  1. 財産の内容を把握する
    放棄の判断は慎重に。不動産など価値の高いものが含まれる場合もあります。
  2. 相続人との関係を確認する
    放棄によって相続人間の調整が必要になる場合もあります。
  3. 手続きのタイミングを見極める
    放棄が確定する前に遺贈財産を使ってしまうと、承認とみなされる可能性があります。

 

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