Last Updated on 2025年3月29日 by 渋田貴正
合同会社では、社員(出資者)の退社時にその持分を払い戻す必要があります。ただし、その金額は単純に出資額を返せばよいというものではなく、会社の財産状況や企業価値を踏まえた“時価”で計算される点に注意が必要です。
まず、以下のような財務状況の合同会社を例に考えます。
【貸借対照表(単位:万円)】
資産の部 | 金額 | 負債・純資産の部 | 金額 |
現金預金 | 400 | 短期借入金 | 200 |
土地(簿価) | 200 | 資本金 | 250 |
資本剰余金 | 200 | ||
利益剰余金 | 150 | ||
合計 | 600 | 合計 | 600 |
【社員別持分管理表】
社員名 | 出資額 | 資本金 | 資本剰余金 | 利益剰余金 | 持分合計 |
A | 300 | 150 | 100 | 100 | 350 |
B | 150 | 100 | 100 | 50 | 250 |
合計 | 450 | 250 | 200 | 150 | 600 |
このような会社で、社員Bが退社を申し出たとします。Bの出資は現物出資で、土地150万円分を拠出しており、それに対して利益剰余金から50万円が配分されて、合計持分は250万円となっています。
一見すると、出資額150万円+利益剰余金50万円=200万円を返せば済むように思えますが、会社法では「退社時点の財産の状況に従って」持分の払戻しを行うこととされています。つまり、会社の“時価”で計算しなければなりません。
(退社に伴う持分の払戻し)
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たとえば、会社が保有する土地が時価で260万円に評価されていると仮定します。帳簿では200万円なので、60万円の含み益(評価益)があることになります。これを企業価値の増加分として、持分に反映する必要があります。
合同会社の社員が退社した際の実際の計算例
評価増分を含めた持分の払戻し額は、以下のように計算されます。
【持分払戻額の計算式】
①Bの持分簿価:150万円(出資)+50万円(利益)=200万円
②土地の評価益:60万円
③Bの出資割合:150万円 ÷ 450万円 = 1/3
▶︎ 払戻額:200万円 +(60万円 × 1/3)= 220万円
Bには220万円を返還する必要があります。なお、出資が土地だったため、原則としてその土地を現物で返還することになります。ただし、評価額が260万円の土地をそのまま返すと過剰になります。そこで、土地(評価額260万円)のうち150万円分を返し、残りの70万円は会社が保有し、差額の70万円(220万円-150万円)を現金で支払うという方法も取れます。
会社としては、退社後も土地を使い続けたいという事情もあるかもしれません。その場合、土地をそのまま保有し、持分220万円の全額を現金で支払うこともできます。
この場合、現金預金が220万円減ることになりますが、貸借対照表の純資産の各項目も次のように減額処理が必要です。
【純資産の減額処理】
項目 | 処理前 | 減額 | 処理後 |
資本金 | 250 | ▲100 | 150 |
資本剰余金 | 200 | ▲100 | 100 |
利益剰余金 | 150 | ▲20 | 130 |
このように、出資額を上回る企業価値の分は、他の社員の利益剰余金から減額して調整します。
◆仕訳の例(現金で220万円を払戻す場合)
借方 | 金額(万円) | 貸方 | 金額(万円) |
資本金 | 100 | 現金預金 | 220 |
資本剰余金 | 100 | ||
利益剰余金 | 20 |
※利益剰余金の20万円のうち、Bに対応する分が不足している場合、残りの社員Aの利益剰余金から調整します。
もし利益剰余金が不足したら?
この場合でも、まずはBの持分に対応する利益剰余金10万円を減額し、残り10万円はAの利益剰余金から減額します。
借方 | 金額(万円) | 貸方 | 金額(万円) |
資本金 | 100 | 現金預金 | 220 |
資本剰余金 | 100 | ||
利益剰余金(B対応) | 10 | ||
利益剰余金(A対応) | 10 |
さらに利益剰余金が全体で10万円しかない場合、実際に払える210万円で精算することにBが合意すれば、会社の資金繰りへの影響を抑えることができます。また、未払い分を将来の利益から分割して支払う内容の合意を結び、債務として処理する方法も可能です。
社員の退社と持分の払戻しには、会社法の知識だけでなく、会計・税務の実務判断が密接に関わってきます。特に、現金や剰余金が不足している場合は、法的リスクや税務上の影響も踏まえて慎重に処理する必要があります。当事務所では、両資格の専門性を活かし、最適な解決方法をご提案いたします。お気軽にご相談ください!

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。