Last Updated on 2025年3月29日 by 渋田貴正

合同会社(LLC)では、社員(出資者)が退社する際、その保有していた持分に相当する金額が払い戻されます。これは、いわば会社から社員に対する「出資の清算」です。

しかし、実務上よくあるのが「本来の持分評価額よりも安く払い戻された」というケースです。たとえば、100万円の価値がある持分なのに、退社時には60万円しか払われなかったような場合。このように差額が生じたとき、合同会社に残った40万円はどのように扱われるのでしょうか?

そもそもの前提として、合同会社の社員が退社する際の持分の払戻し額は時価評価によるものとされています。例えば、合同会社の試算の中に有価証券や不動産が含まれていれば、それらを帳簿価額ではなく時価評価してから、持分払戻額を計算する必要があるということです。

差額は「法人の利益」とみなされることがある

本来、退社した社員に対して払い戻すべき金額よりも、実際に支払った金額が少なければ、その差額は合同会社にとって「債務を免れた=利益を得た」と見なされる可能性があります。

税務上、このような差額は「債務免除益」として課税対象となることがあり、法人税の計算上、益金(収益)に含まれてしまうのです。

【会計処理の例:持分の時価が100、実際の払い戻しが60の場合】

借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額 摘要
資本金 100 未払金 100 本来の持分評価額に基づく払い戻し義務の認識
未払金 100 普通預金 60 実際の払い戻し
債務免除益(特別利益) 40 差額は法人にとって利益として計上

もちろん、いずれ支払うつもりであれば、債務免除益は計上せずに未払金のまま残しておくことも可能です。結局は、この辺りについては退社する社員との話し合いということになります。

持分払戻しの差額トラブルを防止するには?

では、こうした思わぬ税務リスクや社員とのトラブルを避けるためには、どのような準備をしておけばよいのでしょうか?ここでは、実務上効果的な3つの対策をご紹介します。

① 持分の評価方法をあらかじめ明文化しておく

持分の払い戻しは「時価」を基準にするのが原則ですが、この“時価”の算定方法には明確なルールがなく、評価方法によって金額に差が出ることがあります。

そのため、定款や社員間契約書などにおいて、以下のようにあらかじめ評価方法を明文化しておくことが大切です。

  • 純資産方式(会社の資産から負債を引いた純資産額をもとに評価)

  • 帳簿価額方式(直近の決算書上の出資額に基づいて算定)

  • 外部専門家(税理士、公認会計士等)による第三者評価に従う方式

② 払い戻し内容を明記した契約書を作成する

退社時には、社員との間で払い戻し金額やその根拠を明記した「退社合意書」や「持分譲渡契約書」などの契約書を必ず交わしておきましょう。

契約書に記載すべき内容としては、たとえば以下のようなものがあります。

  • 払い戻し額とその評価根拠

  • その金額に退社する社員が合意していること

  • 今後の金銭的請求がないことを確認する「清算条項」

合同会社の社員の退社に伴う持分払い戻しは、単なる“お金のやりとり”ではありません。評価方法や支払金額次第で、会社にとって思わぬ税負担が生じることもあるのです。

大切なのは、「正当な金額を払い戻し、それを第三者にも説明できるように準備しておくこと」。そうすることで、税務上のリスクも社員とのトラブルも避けることができます。

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