Last Updated on 2025年4月1日 by 渋田貴正
代表者の住所非表示制度とは?
2024年10月1日より、商業登記において株式会社の代表取締役の住所を一部非表示にする制度が施行されました。この制度は、代表取締役、代表執行役、代表清算人(以下「代表取締役等」)の住所の詳細(番地以下)を登記事項証明書等で非表示とするものです。
非表示措置を利用するには、以下の登記申請と同時に「代表者の住所非表示」の申出を行う必要があります(単独で住所非表示だけ申し出ることは不可)
対象となる登記申請 | 備考 |
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会社設立時の登記 | 会社設立登記にあわせて申出が可能 |
代表取締役等の就任・重任登記 | 新たに就任、または任期更新時 |
代表取締役等の住所変更登記 | 住所が変更された場合 |
本店移転に伴う登記 | 本店移転と同時に申出が可能 |
非上場企業が添付すべき主な書類
書類名 | 内容・備考 |
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本店所在確認書類 | 配達証明郵便の写し、または司法書士の確認書等 |
代表者の住所確認書類 | 住民票の写し、印鑑証明書など(いずれも発行後3か月以内) |
実質的支配者の本人確認書類 | 司法書士が確認した本人確認書類等 |
この制度は、SNSやインターネットを通じて個人情報が流出しやすい現代社会において、代表者個人へのストーカー行為や悪質な営業電話・郵送物などから身を守る有効な手段として歓迎されています。一方で、実務面においては注意が必要な点もあります。特に、「銀行口座の開設」にあたっての影響が懸念されています。
代表取締役等の住所非表示制度の銀行口座開設の影響は?
法人設立後の最初のステップのひとつに、法人名義の銀行口座の開設があります。従来、金融機関は、登記事項証明書に記載された代表者の住所情報をもとに、申請者の実在性や連絡先の妥当性を確認していました。しかし、非表示制度の導入により、登記事項証明書上では番地が記載されず、確認資料としての信頼性が低下する可能性があります。
このため、金融機関によっては、口座開設時に以下のような追加書類の提出を求める事例が増えると見込まれています。
① 代表者の住所確認書類
登記では確認できない代表者の実住所を把握するために、次のような書類が求められることがあります。
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住民票の写し(発行日から3か月以内)
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印鑑証明書
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公共料金の請求書(電気・ガス・水道など)
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運転免許証またはマイナンバーカードのコピー
これらにより、本人確認および実際の居住実態を確認する目的があります。
② 会社の実在性を証明する書類
バーチャルオフィスなどを本店所在地とするケースでは、金融機関が「事業の実態があるかどうか」を厳しく確認する傾向にあります。
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事務所の賃貸借契約書
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事務所の電気・水道・通信費の請求書
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オフィスの写真
特に、新設法人の場合、営業実体が不明確と判断されると、口座開設を断られる可能性もあります。
③ 事業の内容・取引の実態を示す資料
マネーロンダリング防止の観点から、資金の流れが透明であることを証明する書類が必要です。
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発注書、請求書、納品書、業務委託契約書など
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会社案内、Webサイトのスクリーンショット
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事業計画書
特に設立間もない法人では、取引の証拠が少ないため、開設のハードルが高くなる場合があります。
銀行ごとの対応の違い
すべての銀行が一律に厳格化しているわけではなく、金融機関によって対応は異なります。都市銀行ではセキュリティや反社チェックを重視する傾向が強く、追加資料の提出を標準とするところもあります。一方で、地方銀行や信用金庫では柔軟に対応してくれるケースもあるようです。
また、ネット銀行では「住所非表示登記の場合は原則不可」とする例や、「所定の確認書類を提出すれば開設可能」とする例など、事前の確認が不可欠です。
非表示制度を活用しながらスムーズに口座開設を進めるには?
この制度の活用を希望しつつ、銀行口座もスムーズに開設したいとお考えの方は、以下のような対策が有効です。
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登記申請時から、代表者住所を確認できる書類を準備しておく
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実在性・営業実態を客観的に証明できる書類を整備する
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取引予定の金融機関に事前相談をして、必要書類を把握しておく
また、司法書士や税理士などの専門家に相談し、制度利用のメリット・デメリットを踏まえたうえで、手続きの進行や金融機関との調整を行うことが望ましいでしょう。
専門家によるサポートを
当事務所では、商業登記の専門家である司法書士と、金融実務に精通した税理士が連携し、非表示制度の活用とその後の銀行対応まで一貫してサポートいたします。登記の申請から、金融機関への説明資料の準備、書類の整備、場合によっては事業計画書作成のアドバイスまで対応可能です。
「代表者のプライバシーも守りたいけど、銀行口座が作れなかったら困る…」
そんなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。