Last Updated on 2025年4月1日 by 渋田貴正
合同会社を設立したいと考えている方から、よく寄せられる質問のひとつに「代表社員の住所を登記に載せたくないのですが、非表示にできますか?」というものがあります。プライバシーを守るため、個人の住所を公開したくないという気持ちはもっともですが、結論から言えば合同会社の代表社員の住所は登記簿上、非表示にはできません。
一方で、株式会社の場合は2024年10月から、ある条件を満たせば代表取締役の住所を登記簿に表示しない制度が始まりました。同じ会社なのに、なぜ合同会社では認められていないのでしょうか?
合同会社の代表社員の住所は「登記が必要」
まず、合同会社とは、出資者(=社員)が自ら経営に携わることができる柔軟な形態の会社です。株式会社のように取締役や監査役を設置する義務がない代わりに、原則として出資者である「社員」が会社の代表となります。この代表社員については、会社法の規定により「氏名および住所」を登記することが義務付けられています。
(合同会社の設立の登記)
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つまり、代表社員の住所は「法律上、登記しなければならない」と決められているのです。登記されると、その情報は誰でも取得できる商業登記簿謄本に記載されます。プライバシーを守りたいという方にとっては大きなデメリットに感じられるかもしれません。
株式会社では代表取締役の「住所非表示」が可能に
これに対して、株式会社の場合、2024年10月から、「代表取締役の住所非表示」が可能になりました。
会社の種類 | 代表者の住所登記の要否 | 非表示にするための制度 |
株式会社 | 原則必要だが一部非表示可能 | 法令に基づき非表示制度あり |
合同会社 | 必ず必要 | 非表示制度なし |
このように、株式会社には「プライバシー保護」の観点から配慮された制度がありますが、合同会社にはそのような制度が現時点では設けられていません。
なぜ合同会社では代表社員の住所を非表示にできないのか?
この違いは、会社形態ごとのガバナンスの構造と、法的な立場の違いによるものです。
株式会社では、取締役会が設置され、代表取締役がその中から選任されるという間接的な統治構造があります。また、取締役会がない場合も取締役の互選や株主総会、定款で定めます。つまり、出資者と代表者が必ずしも同一人物であるとは限りません。これに対し、合同会社では出資者(社員)自身が直接経営にあたるという「自ら経営する会社」です。
このため、合同会社では代表社員が「出資者であり、経営責任者でもある」という二重の立場にあることが多く、利害関係者から見て「誰が責任を取るのか」が明確であることが特に重視されます。そのため、代表社員の氏名・住所は「公開されるべき情報」として扱われ、住所の登記が義務付けられているのです。ややとしていますが、株式会社では代表取締役は株式会社から見れば他者ですが、合同会社では代表社員は会社そのものといっても差し支えないということです。
また、現行法では、合同会社の代表社員について「住所を登記しなくてもよい」という例外規定は設けられておらず、法改正が行われない限り、この状況が変わることはありません。
合同会社では、代表社員の住所を登記簿から非表示にすることは、現時点では法律上不可能です。株式会社とは違い、代表社員と出資者が一致していることが多いため、外部からの透明性が強く求められます。これにより、会社の信用性や取引の安全が担保されているのです。
一方で、プライバシーを守りながら会社を運営するための工夫も可能ですので、法人設立前にしっかりと戦略を練っておくことが重要です。
当事務所では、合同会社の設立支援はもちろん、登記内容に関するアドバイスやプライバシー保護に配慮した住所の設定方法についても丁寧にご案内しています。ご不安な点がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。