Last Updated on 2025年4月9日 by 渋田貴正
合同会社(LLC)は、設立費用が安く、組織運営の自由度が高いことから、年々設立件数が増加している会社形態です。しかしその一方で、「自由に決められることが多い=自分たちで決めなければならないことが多い」という特徴もあります。
中でもじゅうようなポイントが「社員の議決権」の扱いです。会社の経営に関する重要な決定をどのように行うのか、あらかじめしっかり定めておかないと、トラブルの原因になることもあります。
合同会社における「社員」とは?
まず、合同会社における「社員」とは、株式会社の従業員のことではありません。ここでいう「社員」とは、出資者であり、経営に関わる権利を持つ人のことです。
つまり、株式会社でいうところの「株主」と「取締役」の役割を兼ねた存在が、合同会社の「社員」といえます。
議決権って何を決められるの?
議決権とは、会社の重要な意思決定を行うための権利です。社員は、この議決権を使って、会社の方針や契約などに関して判断を下します。
たとえば、以下のような場面で議決権が行使されます。
決定事項 | 具体的な場面 |
定款の変更 | 新たな事業を始めるので事業目的を追加したいとき |
会社の解散 | 事業を終了して会社を閉じたいとき |
代表社員の選任・解任 | 現在の代表に代わって別の社員を代表にしたいとき |
大きな契約の締結 | 数百万円単位の業務用機器を購入するとき |
業務執行の方針決定 | 新店舗の出店、事業方針の転換など |
利益の配分方法 | 会社に出た利益を誰にどれだけ分けるかを決めるとき |
このように、合同会社の経営に関する重要な局面で、社員の議決権が必要になります。
原則:社員1名1議決権(持分単一主義)
合同会社では、社員の議決権は定款の別段の定めがない限り1人1議決権です。これは出資の金額には関係ありません。
実際には合同会社は株式会社のように株主総会があるわけではなく、随時社員の同意によって様々なことを決定していくので、会議で使用する「議決権」という言葉が適切かどうかは分かりませんが、株式会社のような資本多数決ではなく、頭数の多数決や社員全員の同意が必要というのが原則ということです。
例外:定款の別段の定め
合同会社の大きな魅力は、定款でルールを柔軟に設定できることです。議決権の配分や意思決定の方法についても、出資割合に応じるなど、自由に定めることができます。
社員 | 出資額 | 出資割合 | 議決権割合(原則) | 議決権割合(別段の定め) |
A | 60万円 | 60% | 50% | 60% |
B | 40万円 | 40% | 50% | 40% |
以下は、実際の定款でよく使われる議決権に関する記載例です。
決議事項 | 定款の定め方(例) | 効果 |
一部の決議を代表社員に一任 | 「第○条 本会社の○○に関する決議は、代表社員が単独でこれを行う。」 | 少額な契約や日常業務について、迅速に判断できます。 |
議決権を均等に配分 | 「第○条 各社員の議決権は、出資の額にかかわらず、社員一名につき一票とする。」 | 出資額に関係なく、対等な経営参加が可能になります。会社法のコンセプトそのままですが、あえて定款に記載することで強調している形です。 |
特定社員に拒否権を与える | 「第○条 本会社の○○に関する決議は、社員Aの同意がなければ成立しない。」 | 少数出資者にも経営への影響力を持たせることができます。 |
このように、会社の実情や関係性に合わせて、柔軟にルールを設計することが可能です。
株式会社では、このような特殊な議決権を持たせるには種類株式の発行が必要になるなど手続きが複雑ですが、合同会社であれば定款に記載するだけでOKという点はメリットとして挙げられるかもしれません。
議決権の配分や意思決定のルールは、合同会社の経営において非常に大きな影響を持ちます。出資額だけでなく、実際の運営体制や関係性、将来的なビジョンも含めて、最適な形を定款に落とし込むことが必要です。
当事務所では、合同会社の設立・定款作成はもちろん、設立後の運営や社員の加入・脱退に関するご相談も多数承っております。司法書士・税理士として、法律と税務の両面からサポートいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。