Last Updated on 2025年4月10日 by 渋田貴正
当事務所でも、海外にお住まいの方から「日本で会社を設立したい」というご相談をいただく件数が年々増えてきています。日本の市場に魅力を感じている方、将来的に帰国してビジネスを展開したい方、あるいはリモートで日本の顧客と取引したい方など、理由はさまざまです。
しかし、その際に必ずといっていいほど直面するのが「日本の銀行で法人口座が開けない」という問題です。今回はこの問題の背景と、近年注目されている代替手段「WISE(旧TransferWise)」などの活用方法について、できるだけ分かりやすく説明いたします。
海外在住の場合なぜ銀行で法人口座が開設できないのか?
会社を設立すること自体は、日本に住んでいなくても可能です。
しかし、設立後に必要となる「法人口座の開設」が、大きなハードルとなります。日本の銀行は、マネーロンダリング防止の観点から、実質的支配者(実質的な所有者)や代表者の本人確認を非常に厳しく行っています。そのため、代表者が日本に居住していない場合、ほとんどの銀行が法人口座の開設を断っています。これは国籍を問わず、日本国籍でも海外在住の場合断られるケースがほとんどです。
銀行が求める主な条件(例)
条件内容 | 備考 |
代表者の日本国内での居住 | 現住所の確認書類が必要 |
会社の実態があること | 事業内容、取引先などを説明する必要あり |
日本語での対応力 | 銀行担当者との面談が求められる場合も |
これらの条件を満たすのは、海外在住の方にとってはかなりのハードルとなります。
WISEは法人口座の代わりに使ってもよい?
銀行口座が作れない場合、選択肢として出てくるのが「WISE Business」です。WISEはもともと国際送金サービスとして始まりましたが、現在では法人向けに多通貨口座を提供しています。法人名義で送金・受け取り・支払いが可能です。
WISEと銀行口座の比較
項目 | WISE | 日本の銀行 |
開設のしやすさ | 海外在住でも可能 | 日本在住が原則 |
日本円での口座機能 | 提携先(SBI新生銀行)経由で保有可 | 日本円口座あり |
通貨対応 | 多通貨(40通貨以上)対応 | 日本円が中心 |
審査の厳しさ | 比較的緩やか | 非常に厳しい(特に海外居住者) |
資金保全 | 信託保全制度(電子決済等代行業者) | 預金保険制度(銀行) |
なお、WISEは銀行ではありません。そのため、預金保険制度(1,000万円と利息までの保護)は適用されませんが、資金は信託口座で分別管理されています。
こうしたWISEなどを使った資金管理について、税務署的に問題ないかというご質問をいただくことがあります。
日本の税務署の仕事は適正に税金額が計算されているかを確認することです。会社の資金のやり取りについて口座が開設できなくてWISEなどのサービスを使っていたとしても、利益が適正に計算されていれば問題はありません。
どちらかといえば、「口座開設できない問題」は税務というよりも実務的な面で考えていく必要があります。
法人口座とWISEの使い分けの考え方
では、「銀行口座がなくても、WISEがあれば問題ないのか?」というと、一概にはそうとも言えません。
WISEが適しているケース
- 海外顧客からの外貨入金を多く受ける事業
- 海外送金が多い場合
- 代表者がしばらく日本に居住する予定がない
銀行口座が望ましいケース
- 融資を受けたい(金融機関との取引)
- 日本国内での信用力を重視する取引先が多い
- クレジットカード決済代行業者との連携が必要
実際には、WISEを「当面の資金管理手段」として利用しつつ、将来的に日本に居住し始めた段階で銀行口座の開設を目指す、という方も多くいらっしゃいます。
海外からの日本法人設立は、設立登記そのものよりも「その後の運営体制」にこそ課題が多くあります。法人口座の問題はその代表例ですが、WISEなどのサービスを上手に活用することで、初期の資金管理や送金に関する問題は一定程度カバーできます。
当事務所では、海外にいながら安心してビジネスを始められるよう、設立手続きから設立後のフォローアップまで、しっかりサポートいたします。
海外在住で日本法人の設立をご検討の方は、ぜひお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。