Last Updated on 2025年4月14日 by 渋田貴正

会社設立後、自分の不動産を会社に売るとどうなる?

不動産管理会社を設立して、代表個人が所有する不動産をその会社に売却するケースは珍しくありません。
これは「資産管理会社スキーム」としてよく活用される手法であり、相続税対策や所得分散、経費化の目的で選ばれることがあります。

ではこのとき、「会社は不動産の代金をすぐに支払う必要があるのか?」という疑問が生じます。
結論から言うと、「必ずしもすぐに支払う必要はない」場合もありますが、一定の注意点を押さえておかないと、税務上のリスクや法的なトラブルが生じるおそれもあります。

会社が不動産を購入する場合、それがたとえ代表者個人との取引であっても、「売買契約に基づく代金支払い義務」が発生します。したがって、通常は契約に定めた期日までに代金を支払う必要があります。

ただし、代表者個人が売主である場合、第三者との通常の不動産売買とは異なる運用がなされることもあります。以下に、第三者と代表者が売主となる場合の違いを表にまとめました。

項目 売主が第三者の場合 売主が代表者個人の場合
売買契約 会社と外部の売主との間で締結 会社と代表者個人との間で締結
取引の原則 原則として対価の支払いと同時に所有権移転(同時履行の原則:民法第533条) 実態として、代金未払いでも先に所有権移転するケースが多い
支払い時期 契約時または引渡し時に一括支払いが多い 分割払いや長期未払処理がなされることがある
所有権移転 代金支払い完了後に登記申請するのが一般的 代金未払いでも登記移転を行うケースがある(法的には有効)
リスク 会社にとって「対外的」な信用・契約義務の履行が重要 税務署に形式的取引と疑われないよう注意が必要

このように、代表者との取引では柔軟な取り扱いがされがちですが、会社法や税法の観点からは「第三者との取引と同等の客観性・妥当性」が求められます。
したがって、契約書や価格の妥当性、代金支払い方法についても慎重な設計が必要です。

代金後払いにするための法的な方法

不動産といえども、売買であることには変わりありません。一般的に、代金後払いにする方法としては以下のような方法が考えられます。

方法 内容 メリット 注意点
売買代金の分割払い 例えば10年かけて毎年一定額ずつ支払う契約にする キャッシュフローを分散できる 利息の設定や履行の確実性が求められる
買掛金として計上 支払期限を長期に設定する 会計処理上の整合性がとれる 税務署に否認されるおそれあり
役員借入金と相殺 代表者が会社に資金を貸し付けていた場合、相殺処理をする 現金のやり取り不要 双方の金額と根拠が明確である必要あり
所有権留保(条件付移転) 代金支払い完了まで所有権を留保する契約とする 安全性確保 不動産登記の扱いに注意が必要

このような手法を用いることで、会社が一時的に多額の資金を支出せずに済むメリットがあります。

代金が未払いでも、所得税は課税される

ここで特に重要なのが、たとえ会社から売却代金を受け取っていなくても、代表者個人には所得税が課税されるという点です。

所得税法では、譲渡所得の計算は「対価の支払時」ではなく、「契約が成立した時点」で行われます。
つまり、売却契約が成立すれば、実際の入金の有無にかかわらず譲渡益があるとみなされて課税されるのです。

たとえば、自宅を会社に時価1億円で売却した場合、まだ1円も受け取っていなくても、その年の確定申告で譲渡所得の申告義務が生じ、所得税を納める必要があります。

このように、「お金が入っていないのに税金がかかる」という状況にならないよう、納税資金の準備や支払いスケジュールの計画が不可欠です。

会社側では未払金として処理できる

一方、会社側の会計処理としては、代金を支払っていなくても「未払金」として計上しておけば問題ありません。
これは「発生主義」に基づく会計処理であり、契約が成立すれば不動産を取得したものとして以下のような仕訳が行われます。

(借方)建物・土地  100,000,000円  (貸方)未払金    100,000,000円

このように、実際の資金の動きがなくても帳簿上は取得済みとして処理されます。
ただし、あまりにも長期にわたって未払のままだと、「実態がない取引では?」と税務上問題視されることがあるため、支払いの意思と計画が明示された契約書等の整備が重要です。

代表者との取引は「同族会社とその役員との取引」に該当し、税務署からのチェックが厳しくなります。
特に以下のような点に注意が必要です。

  • 時価を大きく上回る価格で売却した場合:損金が否認される可能性
  • 代金未払いのまま放置した場合:形式的な取引とみなされるリスク

これらを回避するためには、契約書作成、時価評価の適正化、会計処理の整合性が不可欠です。

代表者個人が所有する不動産を会社に売却した場合、売却代金は原則として支払われるべきですが、分割払いや未払金処理などで柔軟な対応も可能です。

ただし、代金未払いでも譲渡所得に課税される点や、取引の実態が問われるリスクに十分注意し、契約書や支払い計画を丁寧に整える必要があります。

不動産管理会社の活用には多くのメリットがありますが、売買契約や税務処理を誤ると、思わぬ課税やペナルティを受けることもあります。
当事務所では、税理士、司法書士両方の視点から、不動産管理会社の設立支援から契約書の作成、税務リスクの検討までトータルでサポートしております。
「この方法で大丈夫かな?」と感じた方は、ぜひ一度当事務所までご相談ください。