Last Updated on 2025年4月13日 by 渋田貴正

遺言書が見つかると、「家庭裁判所で検認を受ければ、すぐに相続手続きができる」と思い込んでしまう方は多いです。しかし実際には、検認を受けても、すぐに不動産の名義変更や預貯金の解約などの手続きができないケースもあります。

検認」とは何か?

検認とは、家庭裁判所が遺言書の存在と内容を確認し、形状や日付、署名などの状態を記録する手続きです。特に自筆証書遺言が見つかった場合には、開封の前に家庭裁判所に提出して検認を受けることが法律で定められています。

(遺言書の検認

民法 第1004条
  1. 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。

ただし重要なのは、検認は遺言書の「有効性」を判断する手続きではないという点です。

家庭裁判所での検認を受けたのに相続手続きを進めることができない可能性があるケースとしては以下のような記載が考えられます。

問題の種類 内容 結果
意思能力の問題 遺言書作成時に認知症だった、重病で判断力がなかったなど 遺言能力がないとされる可能性
強制や誘導の疑い 特定の相続人に有利な内容が不自然な形で書かれているなど 強迫や詐欺による無効(民法96条)
内容があいまい・不明確 「長男に家を相続させる」など漠然とした記述や、財産の特定が不十分 不動産の登記や銀行の解約ができない
遺言者の意思が読み取れない 書き方がまわりくどく、誰に何をどう渡すかが読み取れない 解釈を巡って相続人間で争いになる
一部の財産しか書かれていない 預貯金や株式についての記載がない 別途遺産分割協議が必要になることも

たとえば、遺言書に「自宅は妻に」とだけ書かれていると、どの不動産なのか、妻が単独で取得するのか、共有なのかなどが明確でなく、登記ができないことがあります。また、他の相続人が納得せずに異議を唱えれば、遺言の有効性を争う裁判に発展することもあります。

登記であれば法務局、口座解約であれば銀行というように、それぞれが遺言の記載内容を判断して遺言の内容を審査します。検認が保証してくれるのは、民法の方式に従って遺言が作成されているかどうかということです。

海外の「プロベート」と日本の検認はどう違う?

日本の検認と混同されやすいのが、英米法圏で行われる「プロベート(Probate)」という手続きです。両者は同じく「検認」と訳されますが、意味も手続きの範囲もまったく異なります。

比較項目 日本の「検認 英米法の「プロベート(Probate)」
目的 遺言書の存在確認・保存 遺言の有効性判断と執行許可
実施機関 家庭裁判所 Probate Court(米・英など)
効力 相続手続きに直結しない プロベート完了で財産分配可能
遺言書の対象 主に自筆証書遺言 すべての遺言書に対応
法的な判断 有効・無効を判断しない 有効性を正式に審査する

日本では「検認=形式確認」「相続手続き=別途進行」が原則ですが、海外では検認の中で有効性も審査されるため、検認手続き自体が財産分配の前提となる点が大きく異なります。

検認後の手続きをスムーズに進めるには?

検認を終えた遺言書がスムーズに使えるかどうかは、次のような点で判断されます。

チェックポイント 内容
要件を満たしているか 日付、署名、押印があるか(民法968条)
内容が明確か 財産の特定や分配の方法がはっきりしているか
相続人の合意はあるか 他の相続人が遺言に異議を唱えていないか

少しでも不安がある場合は、遺言書のリーガルチェックを司法書士や弁護士に依頼することが大切です。

遺言検認後の手続きに必要なサポートとは?

検認を終えたからといって、それだけで万事うまく進むわけではありません。不動産の登記、預金の解約、株式の名義変更など、実際の相続手続きは多岐にわたります。また、相続税の申告や名義変更の期限もあるため、早めに専門家に相談しておくことでトラブルを未然に防ぐことができます。

「家庭裁判所の検認を受けたから、もう安心」と思ってしまう気持ちは分かりますが、実際の相続手続きはそこからが本番です。検認は遺言の有効性を保証するものではないため、必ずしもそのまま相続手続きに使えるとは限りません。

遺言の内容が適切か、他の相続人との調整はできているかなど、多角的に確認した上で、確実に手続きを進めていく必要があります。検認手続きのあとに相続登記や遺産分割、相続税申告などを控えている方は、ぜひ一度、当事務所へご相談ください。