Last Updated on 2025年4月14日 by 渋田貴正

法人が社宅を借りて役員に貸す、いわゆる借り上げ社宅の場合、正しい手続きと金額設定をすれば、会社が家賃を負担しても、役員個人には給与課税されないという制度があります。中小企業の社長や少人数の役員構成の法人にとって、うまく活用すれば手取りを増やす有効な節税手段になります。

「社宅家賃50%」の根拠

よく社宅を会社で借りた場合、家賃の50%を徴収しておけばOKということを耳にします。

このいわゆる「50%ルール」は、税法上の明文化された規定ではなく、国税庁の所得税基本通達36-40および36-41〜36-48などの実務的な取扱いに基づいたものです。

通達では、役員に貸与する社宅の「通常の賃貸料」の額について、原則として以下の計算式で求めるとしています。

小規模住宅(床面積132㎡以下または鉄筋コンクリート造なら99㎡以下)の場合

木造: (固定資産税課税標準額 × 0.2%)+(敷地の課税標準額 × 0.22%)+(延床面積 × 12円)

鉄筋: (固定資産税課税標準額 × 0.3%)+(敷地の課税標準額 × 0.22%)+(延床面積 × 12円)

この算式により求められた金額を役員から徴収していれば、会社が残りの家賃を負担しても給与課税はされません。

通達では、会社が借り上げた住宅を役員に貸与する場合において、その支払家賃の50%が上記算式よりも高いときは、50%の金額をもって“通常の賃貸料”としてよいとされています。

(徴収している賃貸料の額が通常の賃貸料の額の50%相当額以上である場合)

36-47 使用者が使用人に対して貸与した住宅等につき当該使用人から実際に徴収している賃貸料の額が、当該住宅等につき36-45により計算した通常の賃貸料の額の50%相当額以上である場合には、当該使用人が住宅等の貸与により受ける経済的利益はないものとする。

「会社が支払っている賃貸料の50% ≧ 上記の通達算式で求めた金額」であれば、50%を徴収していれば課税されない、という扱いになります。通常、上記の計算式で計上した数字よりも賃貸料の50%のほうが高くなるので、ひとまず50%を徴収しておけば安心という考えが広まったということです。

つまり、

  • 社長から相場家賃の50%を徴収
  • 残りを会社が負担

という形での運用が一般的となり、「社宅家賃は50%でOK」という理解が定着していったのです。

従業員に貸与する場合にも、「徴収額が通常の賃貸料の50%以上である場合、経済的利益はないと扱う」とされています。役員への社宅提供においても、この考え方が実務に影響を与えたと考えられます。

例)

項目 内容
家賃の額 月10万円(相場)
通達に基づく金額 月1万〜2万円程度
50%の負担額 月5万円
税務リスク 通達金額≦徴収額 → なし
50%ルールと通達計算式の比較

50%ルールと実際の計算式に基づいたケースの違いを簡単にまとめました。

項目 50%ルール 通達計算式に基づく徴収
計算の簡便さ 相場家賃の半額で設定すればよいので簡単 固定資産税評価額などの資料が必要なため手間がかかる
実務での汎用性 中小企業で広く採用されている できる限り家賃を会社に負担させたい会社向け
年度ごとの見直しの必要性 ほぼ不要(家賃の変更がない限り) 固定資産税評価額等の更新が必要

上記のように50%ルールに比べて、通達計算式による場合は、税務的に見れば有利な点がある一方で、固定資産税評価額を確認する必要があるなど、手間がかかります。

特に一人社長の会社などで税金的なメリットを求めて通達計算式を採用する場合には、

  • 通達に基づいた「通常の賃貸料」の計算
  • 契約書や領収書等の整備
  • 家賃支払いの証拠(振込記録など)

を適切に行うことが重要です。

社宅制度は中小企業経営者にとって非常に有効な節税策ですが、「50%ならOK」と鵜呑みにするのではなく、通達ベースの根拠を踏まえた運用をすることでより税務的なメリットを得ることができます。

当事務所では、税務と法務の両面に対応できる税理士が、社宅制度の導入から運用チェックまでサポートいたします。

「うちのやり方、このままで大丈夫?」と不安をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。