Last Updated on 2025年4月24日 by 渋田貴正
日本に住む方がアメリカ国内に証券口座や預金口座を保有したまま亡くなった場合、日本国内の相続手続だけで完了するわけではありません。特に米国における資産が一定以上ある場合、「プロベート(Probate)」と呼ばれる裁判所の監督下による相続手続が必要となることがあります。
例えば、以下のような財産があるケースを想定します。
財産内容 | 所在地 | 評価額(USD) |
---|---|---|
証券口座(株式・投資信託) | NY州の証券会社 | 約40万ドル |
銀行預金 | NY州の銀行 | 約5万ドル |
これらの口座に「Payable on Death(POD)」や「Transfer on Death(TOD)」といった受取人指定がなされていない場合、ニューヨーク州ではプロベート手続が必要になります。
プロベートとは?
プロベートとは、米国で相続が発生した際に、遺産の債務整理や分配などを裁判所の監督下で行う手続のことです。
プロベートの特徴:
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相続財産が一定額を超えると、裁判所に申し立てを行い、「人格代表者(Personal Representative)」の指名が必要になります。
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人格代表者が遺産を管理し、債務や相続税を支払った上で、残った財産を相続人に分配します。
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手続が完了するまでに1年以上かかることもあり、米国弁護士に依頼する場合は報酬も高額になりがちです。
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手続の過程で、遺産の内容や相続人の情報が公開されるため、プライバシー面での懸念もあります。
POD・TODとは?
米国には、相続時の負担を軽減する制度として「Payable on Death(POD)」および「Transfer on Death(TOD)」という仕組みがあります。これらは日本ではなじみが薄いですが、アメリカでは非常に有効な相続対策とされています。
Payable on Death(POD)口座とは?
PODとは、銀行口座の所有者が生前に受取人を指定しておくことで、死亡時にその人が預金を直接相続できるという制度です。裁判所の手続(プロベート)を経ずに資金が移転するため、非常にスムーズです。
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生前は口座所有者が自由に資金を出し入れでき、受取人の変更も可能です。
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ただし、米国外在住者がPOD口座を利用できない金融機関もあるため、あらかじめ確認が必要です。
Transfer on Death(TOD)登録とは?
TODは、証券口座におけるPODのような制度で、株式や投資信託などの資産について、あらかじめ受取人を登録しておくものです。
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プロベートを経ずに、指定された受取人に資産が移転されます。
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生前は、口座所有者が自由に取引を行え、受取人の変更や取消も可能です。
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こちらも、金融機関によっては非居住外国人によるTOD登録を認めていない場合があります。
プロベートを回避できたとしても、米国の金融機関での名義変更や解約には以下の書類が必要です。
書類 | 説明 |
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死亡証明書(Death Certificate) | 除籍謄本の英訳と公証が必要です。 |
パスポートの認証 | 相続人のパスポート翻訳と署名の公証が必要です。 |
口座開設書類とその認証 | 相続人名義の新口座開設時に必要です。 |
相続を証する書類と認証 | 遺産分割協議書の英訳および公証が必要です。 |
これらの書類準備だけでもかなりの手間と時間がかかることがあり、事前の備えが重要となります。
米国に金融資産を持つ日本居住者が亡くなった場合、日本だけでなく米国側でも相続手続が必要になることがあります。特にPODやTODの設定がされていないと、プロベートという煩雑で時間のかかる手続が発生します。
事前にPODやTODの設定を行うことで、相続人にとって大きな負担を軽減することができます。これらの制度は、相続時のトラブルや手続の複雑化を防ぐ有効な手段です。
当事務所では、米国に資産をお持ちの方の生前対策から、相続発生後の実務手続まで幅広く対応しております。お気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。