抵当権の抹消を単独申請できる

相続した土地や建物に、数十年前の古い(根)抵当権がそのまま残っていることがあります。中には、すでに解散して消滅しているであろう法人が(根)担保権者、つまりお金の貸し手などであるような権利も、そのままゾンビのように残っていることもあります。

いくらその抵当権が現在は消滅しているはずだということが分かっていたとしても、登記上(根)抵当権が残っている以上は、その不動産を売却したり、建物を取り壊したりすることはできません。「お父さん、なぜ当時抹消してくれなかったの?」と言いたくなりますが、相続人としては何とかその(根)抵当権を抹消する必要があります。

この場合で、もしその法人が清算しているのであれば、閉鎖事項証明書や閉鎖した登記簿謄本から当時の清算人(代表取締役や弁護士の先生など)を確認して、その清算人との共同申請により担保権を抹消することになります。

しかし、中には、清算が行われず解散のまま登記が止まっていて、とはいっても実質的にその会社は消滅しているであろうといったケースも存在します。こうした場合の対応として、不動産登記法では担保権の目的となっている債権の弁済期から20年経過していて、かつ債権や利息を供託した場合に、単独での担保権抹消申請を認めています。しかし、供託など面倒な手続きがありますし、この前提として公示催告という手続きが必要になるなど、非常に手間がかかります。

そこで、以下の要件を満たす場合には、公示催告や供託を経ることなく、より簡単に(根)抵当権抹消を単独申請できるようになります。

要件1:債権者である法人が解散していること

要件2:解散から30年経過していること

要件3:調査しても(根)抵当権者の所在が判明しないこと

要件4:被担保債権の弁済期から30年経過していること

単独抹消ができる担保権の種類

単独抹消できる登記の種類は、(根)抵当権のほか、先取特権、地上権・永小作権・質権・賃借権・採石権などの登記です。ただし、存続期間が定められる担保権の登記の単独抹消については、より簡単な要件でも抹消できます。そのため、この相手が法人であるケースでの単独抹消については、(根)抵当権を対象とすることがメインになるでしょう。

また、抵当権といえば、大抵は法人が債権者となっていますが、もし債権者が個人の場合はこの規定は使えないので注意しましょう。

※この規定は、2023年(令和5年)4月1日施行予定です。

不動産登記法 70条の2

登記権利者は、共同して登記の抹消を申請すべき法人が解散し、前条第二項に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しないためその法人と共同して先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請することができない場合において、被担保債権の弁済期から30年を経過し、かつ、その法人の解散の日から30年を経過したときは、第60条の規定にかかわらず、単独で当該登記の抹消を申請することができる。