EU相続規則とは

国際相続は、国ごとに異なる法律体系があるために非常に複雑です。例えば、被相続人が死亡した際に複数の国に資産を持っている場合や、相続人が異なる国に住んでいる場合、相続人の範囲はどうなるのか、どの国の法律を適用すべきかといったことについて国ごとに異なる相続法が適用されるため、時間や費用がかかる場合も少なくありません。こうしたことは日本だけでなく世界的に生じています。

そこでEU内において制定されたのがEU相続規則 (European Succession Regulation, Regulation (EU) No 650/2012)です。この規則 は、欧州連合(EU)の加盟国間で国際的な相続問題を統一的に取り扱うために2015年8月17日に施行されました。この規則はEU加盟国全体で統一された相続のルールを設けることで国際相続における法の適用について明確な判断基準を設けるとともに、被相続人が生前にどの国の法律に基づいて相続を行いたいかを選択できるようにしています。

EU相続規則の適用国

この規則は、デンマーク、アイルランド、イギリスを除く、すべてのEU加盟国で施行されています。これらの3カ国は、この規則に参加していないため、相続に関してはそれぞれの国内法が引き続き適用されます。具体的にはそれ以外の以下の国々で規則が適用されています:

  • オーストリア
  • ベルギー
  • ブルガリア
  • クロアチア
  • キプロス
  • チェコ共和国
  • エストニア
  • フィンランド
  • フランス
  • ドイツ
  • ギリシャ
  • ハンガリー
  • イタリア
  • ラトビア
  • リトアニア
  • ルクセンブルク
  • マルタ
  • オランダ
  • ポーランド
  • ポルトガル
  • ルーマニア
  • スロバキア
  • スロベニア
  • スペイン
  • スウェーデン

これらの国では、国際相続の場面で統一的な手続きが導入され、相続人が複数の国に居住している場合や、被相続人が複数の国に資産を保有している場合でも、法的な手続きがシンプルになりました。

EU相続規則では相続統一主義が原則

EU相続規則の最も重要な原則は、被相続人が死亡した時点での「常居所」に基づく法律が相続に適用されることです。(相続統一主義)被相続人がどの国に居住していたかが相続手続きを決定する基本的な要素となります。これにより、たとえば、フランスに居住していたイタリア国籍の人物が死亡した場合、その相続は原則としてフランス法に基づいて処理されることになります。またEU内のみだけではなく、例えば日本に居住していたドイツ国籍の人が亡くなった場合も常居所である日本の法律が相続で適用されるということになります。

ただし、被相続人が生前に遺言などで国籍法の適用を選択していた場合、その国籍に基づく相続法を適用することも可能です。これにより、国際的に居住している人々が自国の法的枠組みを相続に適用することも可能です。たとえば、イタリア国籍の人物がフランスに住んでいた場合、フランス法ではなくイタリア法を選択することが可能です。この選択を行うことで、被相続人が自分の文化的背景や法的希望に沿った相続を確保することができます。

また、規則の導入により、相続人が他のEU加盟国で遺産を相続する場合に使用できる「ヨーロッパ相続証明書」が設けられました。この証明書は、相続人や遺言執行者がEU加盟国内で遺産を迅速に処理するために必要な文書であり、すべての加盟国で相互に認められています。この証明書を用いることで、相続権の確認や資産の管理がスムーズに行えるようになり、国境を越えた相続における法的手続きを大幅に簡素化することができます。

EU相続規則は、個人が異なる国に資産を持っている場合でも、一貫した相続手続きを行えるように設計されています。たとえば、被相続人がある国で遺言を作成した場合、その遺言は他の加盟国でも有効とみなされるため、相続手続きが複雑になりにくくなります。また、相続人が異なる国に居住している場合でも、すべての相続手続きを統一的に処理することができます。

EU相続規則の常居所の判断基準

EU相続規則における「常居所」は、相続手続きを進める上で重要な要素です。具体的には次のような要素が考慮されます。

  • 被相続人がどの国で最も長い期間を過ごしたか
  • 被相続人がその国でどのような家族的・社会的関係を築いていたか
  • 被相続人がその国で職業を持っていたか、または不動産を所有していたか

このような要素を総合的に判断して、通常の居住地(常居所)が決定されます。

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