Last Updated on 2025年1月7日 by 渋田貴正
種類株主総会の決議を省略できないケース
会社運営において種類株式を発行する際、経営効率を考慮して「種類株主総会の決議を要しない旨の定め」を設けるケースがあります。これは、種類株主総会を開催せずに通常の株主総会の決議のみで特定の事項を進められる条項です。特に、複数の種類株式を発行するベンチャー企業などでは、煩雑な手続きを簡略化する手段として有効です。ベンチャー企業などでは、投資の段階に応じて、A種・B種・C種など複数の種類株式を発行することがあります。このような場合に、全ての種類株主総会を開催するとなると、非常に手間がかかります。そこで、上記のような旨の定めを設けて、種類株主総会を開催せずに決議ができるようにするということです。
具体的には種類株式を発行する際に、「種類株主総会の決議を要しない旨の定め」ということで、会社法上、種類株主総会の決議が必要とされている事項について、種類株主総会の決議を経ることなく、通常の株主総会の決議だけで行う旨の条項を設けることがあります。(議決権制限株式)
しかし、この条項を設けたとしても、会社法では種類株主総会の決議が必須とされる場合があります。これを怠ると法的な効力が認められないだけでなく、適切な決議が行われていないということで将来的な訴訟リスクを招く恐れもあります。具体的には会社法では、以下の3つの変更を行う際には、種類株主総会の決議を省略できない旨が定められています。
- 株式の種類の追加
- 株式の内容の変更
- 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加
(ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会) 会社法 第322条 種類株式発行会社が次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該行為は、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会。以下この条において同じ。)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。 一 次に掲げる事項についての定款の変更(第百十一条第一項又は第二項に規定するものを除く。) イ 株式の種類の追加 ロ 株式の内容の変更 ハ 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加(中略) 2 種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる。 3 第一項の規定は、前項の規定による定款の定めがある種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会については、適用しない。ただし、第一項第一号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く。)を行う場合は、この限りでない。 |
種類株主総会の決議を省略できないパターン1 株式の種類の追加
新たな種類株式を発行する際には、既存の種類株主への影響が生じる可能性があります。例えば、既にA種類株式を発行している会社が新たにB種類株式を発行する場合、A種類株主の権利が実質的に侵害される可能性があるため、A種類株主総会の決議が必要です。
例外規定として定款で「決議を要しない旨」を定めた場合でも、株式の種類を新設する行為は法律上その適用外となります。
種類株主総会の決議を省略できないパターン2 株式の内容の変更
すでに発行している種類株式の内容を変更する場合には、種類株主総会での決議が必須ということです。種類株主以外の株主も入った通常の株主総会だけで種類株式の内容を変更できるとなると、もし普通株主が大勢を占めていれば、普通株主の意向で種類株式の内容を変更できてしまいます。
こうしたことから、その種類株主だけでの決議も必要ということです。
種類株主総会の決議を省略できないパターン3 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加
発行可能株式総数の変更や種類株式の枠を増やす行為も、種類株主総会が不可欠です。これは、新たな株式発行に伴う既存株主の権利希薄化を防ぐためです。種類株式を持つ株主に不利益が生じる場合、事前の合意が必要です。
種類株主総会の決議を省略できないパターンに該当する場合は株主総会を間違いなく開催しましょう
上記のように、特に新たに種類株式を追加する際に、他の種類株主総会の開催を省略してしまうということがあります。種類株式にどれだけ決議省略の条項があっても、こうした場合には種類株主総会の決議が必要であるということです。「種類株主総会の決議を要しない旨の定め」は便利な制度ですが、適用外となる例外ケースが存在します。特に株式の種類追加、内容変更、発行可能株式総数の増加の3点は注意が必要です。会社法を正確に理解し、適切な手続きを踏むことで、法的トラブルを未然に防ぎましょう。
上記のパターンはいずれも登記の変更が伴うものです。当事務所でも、種類株式の発行の登記を始め、各種種類株式の登記を行っております。種類株式の発行の際には、ぜひ当事務所にご相談ください。
司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。少しでも相続人様の疑問や不安を解消すべく、複数資格を活かして相続人様に寄り添う相続を心がけている