Last Updated on 2025年1月9日 by 渋田貴正

中国の居民戸口簿とは

中国の居民戸口簿は、住民の基本的な情報を記録するための公的書類で、戸籍制度とは異なる性質を持っています。この制度は、1958年に公布された「中華人民共和国戸口登記条例」を基盤に構築され、主に行政管理を目的として運用されています。戸口簿には、住民の氏名、住所、家族構成、職業などが記載されています。

日本の戸籍と比較すると、中国の戸口簿は家族関係や身分関係の証明というよりも、住民の居住状況を管理するためのものであり、個々の法的な身分関係を証明する機能は限定的です。そのため、中国の居民戸口簿は、日本で相続登記を行う際に直接使用されることはほとんどありません。

そもそも中国の戸口制度は、1950年代の経済政策に起因します。当時、中国は農業労働力を確保し、都市への人口流入を抑制するために、住民を農村や都市に固定化する政策を採用しました。この制度の下で、各家庭が「戸主」を中心とした記録簿を持つことが義務付けられ、それが現在の居民戸口簿の基盤となっています。

このような歴史的背景から、居民戸口簿は行政管理を重視した制度として運用され、家族関係の証明という側面では日本の戸籍制度ほど強力ではありません。その結果、日本の相続登記においては、戸口簿単独では十分な証明力を持たないのです。

日本での相続登記での居民戸口簿の位置づけ

日本で相続登記を行う場合、被相続人(亡くなった方)の家族関係を証明する書類が必要です。日本では戸籍がこれに該当しますが、中国では戸籍制度に相当する統一的な仕組みがないため、居民戸口簿だけでは相続人を確定する十分な証拠とはなりません。

居民戸口簿が相続登記に適さない理由:

  1. 家族関係の不完全な証明: 居民戸口簿は家族構成が記載されているものの、法的に相続人を特定する証拠とはなりません。たとえば、出生や婚姻、死亡の詳細な記録がない場合があります。
  2. 更新の不整合: 戸口簿の情報が更新されていない場合があり、最新の家族状況を反映していないことがあります。
  3. 法的効力の限界: 日本の法務局では、戸口簿そのものを正式な相続証明書として認めていません。

そのため、日本での相続登記においては、居民戸口簿の代わりに、公証書(日本の公証役場で作成する公正証書に相当)を利用することが一般的です。公証書は、中国の公証処で作成され、被相続人の家族関係や相続人の身分を証明するものです。

  1. 公証書による補足の必要性

中国で作成される公証書には、以下のような情報が記載されます。

  • 被相続人の死亡日時とその証明書
  • 相続人全員の情報(氏名、生年月日、続柄など)
  • 相続人が相続に同意していることを示す声明

この公証書を日本語に翻訳し、正式な認証を受けた上で法務局に提出することで、相続登記の要件を満たすことが可能になります。公証書は、中国国内の行政機関と日本の法務局の間で法的効力を担保する重要な書類です。

中国籍の方が日本で相続登記を行う際の注意点

遺言があればシンプルですが、遺言がない場合、中国籍の方が日本で相続登記を行う場合、以下の点に留意する必要があります。

  1. 追加書類の準備: 居民戸口簿だけでは不十分なため、公証書の取得が必須です。中国の公証機関で家族関係の証明を依頼する必要があります。
  2. 翻訳と認証: 公証書や関連書類は、日本語の翻訳文が必要です。
  3. 相続人の確認: 被相続人の全ての相続人を特定するために、必要に応じて追加の資料を用意します。

中国の居民戸口簿は、日本の戸籍と異なり、家族関係の詳細な証明書としては適さないため、日本で相続登記を行う際には基本的に使用されません。代わりに、中国の公証書を用意し、日本の法務局が求める形式に整えることが必要です。相続手続きの準備段階で、必要書類の取得や手続き方法について専門家に相談することをお勧めします。

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