Last Updated on 2025年1月12日 by 渋田貴正

定期建物賃貸借契約(定期借家契約)とは

定期建物賃貸借契約とは、期間の定めがある建物の賃貸借契約であり、契約の更新がない点に特徴があります。この契約は、公正証書等の書面で締結することが必要であり、一般には「定期借家」として知られています。

定期借家契約の特徴は以下の通りです。

賃貸借期間が明確に定められる 1年以上の長期契約はもちろん、1年未満の短期契約も可能です。
契約の更新がない 賃貸借期間が満了すると、契約は確定的に終了します。賃借人が引き続き利用を希望する場合には、新たに契約を締結する必要があります。
書面での契約が必須 契約は公正証書などの書面で締結する必要がありますが、必ずしも公正証書である必要はありません。

この契約は、賃貸人が契約終了時に確実に物件を回収できるメリットがあります。(もちろん契約期間満了後に新たな契約を締結してもよいですが。)

一方で、賃借人にとっても賃料や契約内容が明確であり、一定期間利用できるという安心感があります。ただし、定期借家であることをしっかりと理解しておかないと、いざ期間満了時になって必ず再契約してもらえるわけではなく、退去することで慌てることになりかねません。

重要なのは、契約期間の満了で自動的に終了するという点です。もし、期間満了後も借り続けられるとしても、それは契約の更新ではなく、再契約です。最初の契約は強制終了するわけで、その終了後に再契約しないことになったとしても、再契約しないことに対して賃貸人側の動機や経緯は問われず、賃貸人の一存ということになります。まさに「定期」借家契約ということです。

普通建物賃貸借契約との違い

普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約には、次のような違いがあります。

項目 普通建物賃貸借契約 定期建物賃貸借契約
契約期間 明確な定めがなくても可。契約期間が満了しても更新が認められる場合がある。 期間の定めが必須。1年未満の短期契約も可能。
契約の更新 更新が可能(合意更新、法定更新、黙示の更新など)。賃貸人は正当な理由がない限り更新拒絶できない。 更新不可。契約期間満了で確定的に終了する。ただし、再契約を締結することは可能。
終了の条件 賃貸人が契約終了を希望する場合、正当な理由(例:自己使用、建物取り壊し等)が必要(借地借家法第28条)。 契約期間の満了で自動的に終了する。終了時の通知が必要(期間1年以上の場合、1年前から6か月前までに通知)。

通知が間に合わなかった場合、通知してから6か月経過後に契約終了

賃料改定 賃料改定に関する特約がない場合、借地借家法第32条に基づき、賃貸人または賃借人が賃料の増減請求を行うことが可能。 賃料改定に関する特約を設けることが可能(例:期間中賃料を増減しない)。特約があれば増減請求権は適用されない(借地借家法第38条第7項)。
事前説明義務 特別な義務はないが、一般的に契約内容の説明が求められる。 賃貸人は契約の更新がないことや期間満了で終了することを記載した書面を交付し、説明する義務がある(借地借家法第38条第2項)。
賃借人の解約権 借地借家法第26条に基づき、一定の条件下で解約可能。 居住用建物(床面積200㎡未満)について、やむを得ない事情(転勤、療養、親族の介護等)の場合、解約を申し入れることが可能(借地借家法第38条第5項)。
適用例 居住用や事業用の一般的な賃貸借契約。 一定期間の利用を目的とする賃貸借(例:短期滞在用、事業用物件、建物取り壊し予定の物件)。
賃貸人による事前説明の義務

定期建物賃貸借を締結する際には、賃貸人には事前説明の義務があります(借地借家法第38条第2項)。具体的には、賃貸人は契約の更新がなく、期間満了により契約が終了する旨を記載した書面を、契約前に借家人へ交付し説明しなければなりません。

この事前説明の要点は以下の通りです:

  1. 書面は契約書とは別に独立して作成する必要があります。
  2. 借家人が更新がないことを認識している場合であっても、書面交付と説明は省略できません。
  3. この説明が行われなかった場合、不更新特約は無効となり、普通建物賃貸借として扱われます。

裁判例でも、この事前説明が非常に重要視されています。例えば、最高裁判所の平成24年9月13日の判決では、事前説明書が契約書と別個独立の書面であることが求められると明確にされています。契約段階で、更新がなく契約満了すれば退去の可能性があることを、しっかりと賃借人に認識してもらう必要があるためです。

賃貸人による終了通知の義務

定期建物賃貸借契約では、賃貸借期間が1年以上の場合、賃貸人は期間満了の1年前から6か月前までの間に、賃借人に対して契約終了を通知する必要があります(借地借家法第38条第4項)。この通知を怠った場合、契約終了を賃借人に対抗することができず、賃貸借関係が継続することになります。

ただし、通知が遅れた場合でも、通知の日から6か月を経過すれば契約が終了します。この通知は内容証明郵便を用いるのが一般的です。

賃借人の定期借家契約の解約権

定期建物賃貸借においては、特定の条件下で賃借人に解約権が認められます(借地借家法第38条第5項)。これには以下のような場合が含まれます:

  • 転勤により生活の本拠を移さざるを得ない場合
  • 疾病治療のため長期療養が必要な場合
  • 親族の介護が必要になった場合

この解約権を行使する場合、賃借人は解約の申し入れを行い、申し入れから1か月後に契約が終了します。この制度は、定期借家契約であっても柔軟な対応が可能な仕組みとなっています。

取壊し予定の建物賃貸借契約

取壊し予定の建物賃貸借契約とは、一定期間経過後に建物を取り壊すことが明らかである場合に、取り壊し時に契約が終了する旨を特約として定めた契約をいいます(借地借家法第39条)。この契約では、建物を取り壊す理由を記載した書面(例えば用地買収などで2年後には建物の取り壊しが決まっているなど)が必要です。

取壊し予定の建物賃貸借契約は、賃貸人が建物の老朽化や再開発などを理由に建物を取り壊す場合に利用されます。この契約では、取り壊しに伴う利害を明確にするため、特約の内容や書面の適切な作成が求められます。