Last Updated on 2025年1月20日 by 渋田貴正
個人事業主が法人化(法人成り)する場合に未償却の固定資産があり、その資産を法人化後も引き続き使用するという場合には、その固定資産を帳簿上引き継ぐことになります。例えば、飲食店を経営していた個人事業主が内装工事をして固定資産計上して、償却が終わらないまま法人化した場合などが考えられます。
この場合、個人事業主が自ら設立した会社とはいえ、個人事業主と新設法人は別人格です。そのため、固定資産も物理的・現実的には変わらず使用し続けているだけだとしても、法的には個人事業主から新設会社への「売買」または「現物出資」ということになります。
この場合、新設法人から見れば、法人化によって個人事業主から取得した固定資産は中古です。中古の固定資産については、これを事業に供した事業年度(法人成りなので一般的には設立したら即事業供用)において、その用に供した時以後の使用可能期間の(中古資産の見積耐用年数)の見積りをした場合には、その見積耐用年数より減価償却することができます。
中古資産の見積もり耐用年数
新品の資産には、法律で定められた使用可能な期間(これを「法定耐用年数」といいます)があり、その期間にわたって減価償却を行っていきます。しかし、中古で購入した資産は、すでに使用されているため、残りの使用可能な期間は新品とは異なります。法人成りによる新設法人が個人事業主から引き継いだ固定資産も中古扱いなので、中古資産の見積耐用年数により減価償却します。
中古資産の場合は、まずは購入後にどれくらいの期間使用できるかを見積もり、その期間を耐用年数として設定します。しかし、そもそも新品でも法定耐用年数という実際の使用年数とは別に設定された年数を使っているわけで、中古資産の場合に購入後の使用可能期間を合理的に見積もることは小規模な企業では非常に困難です。
そこで、以下の簡便法が使用されるケースが実際にはほとんどです。
使用可能期間の見積りが難しい場合の簡便法
中古資産の残りの使用期間を正確に見積もることが難しい場合、以下の簡単な計算方法(簡便法)を使って耐用年数を求めることができます。
- (1) 法定耐用年数の全期間が過ぎた資産の場合
元々の法定耐用年数の20%に相当する年数を耐用年数とします。
例: 法定耐用年数が10年の資産が、すでに10年以上使われている場合、10年 × 20% = 2年となり、耐用年数は2年となります。
- (2) 法定耐用年数の一部が過ぎた資産の場合
以下の計算式で耐用年数を求めます。
(法定耐用年数 - 既に使用した年数)+(既に使用した年数 × 20%)
例: 法定耐用年数が30年で、既に10年使われている資産の場合、
(30年 - 10年)+(10年 × 20%)= 20年 + 2年 = 22年
※計算結果に1年未満の端数がある場合は切り捨て、算出された年数が2年未満の場合は2年とします。
- 具体例
法定耐用年数が30年で、既に10年使われている時点で法人化した場合、簡便法による耐用年数の計算は以下の通りです。
- 法定耐用年数から既に使用した年数を引く
30年 - 10年 = 20年
- 既に使用した年数の20%を計算する
10年 × 20% = 2年
- 1と2を足す
20年 + 2年 = 22年
この場合、耐用年数は22年となります。
この場合、1年未満の端数が出れば、端数は切り捨てることができます。(切り捨てたほうが耐用年数が短くなるので減価償却の上では有利になります。)
資本的支出がある場合の取り扱い
中古資産を事業に使用する際、その価値を高めるために行う支出を「資本的支出」といいます。例えば、古い建物の大規模な改修や機械設備の性能向上のための改造などがこれに該当します。この資本的支出が、その中古資産の新品を購入した場合の価格(再取得価額)の50%を超える場合には、注意が必要です。
このような場合、通常使用される簡便法による見積耐用年数の設定は適用されません。代わりに、購入した資産の元々の法定耐用年数をそのまま適用することになります。これは、大規模な修繕や改造により、資産が新品と同等の性能や価値を持つとみなされるためです。
例えば、法定耐用年数が10年の中古機械を購入し、さらにその性能を向上させるための修繕費用が新品価格の50%以上に達した場合、この機械の耐用年数は元の10年が適用されます。
中古資産の見積もり耐用年数の設定できる年度とは?
中古資産の耐用年数は、その資産を事業で使い始めた年度内に設定する必要があります。もしその年度内に設定しなかった場合、後の年度で耐用年数を再設定することはできません。例えば、法人化1年目で法定耐用年数の6年で償却した固定資産について、2年目に中古資産の見積もり耐用年数の扱いを知って2年目から耐用年数を短縮するといったことは認められないということです。
中古資産の見積耐用年数を設定する際は、法定耐用年数や資産の状態をしっかりと確認し、顧問税理士に確認するなどして慎重に進めましょう。
司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。