Last Updated on 2025年1月21日 by 渋田貴正

相続税・贈与税における「住所」の定義

相続税や贈与税に関しては、相続税法そのものに「住所」の定義が存在しません。そのため、民法の規定を借用しています。具体的には、民法第22条が適用され、「各人の生活の本拠」がその人の住所とされています。

(住所)

民法 第22条 各人の生活の本拠をその者の住所とする。

この「生活の本拠」であるかどうかは、客観的な事実に基づいて判断されます。たとえば、住民票があるかどうかだけでは判断されず、実際に生活の拠点となっている場所を総合的に見て決定されます。どこでどのように生活しているかという実態が重視されるのです。

相続税・贈与税と所得税における「住所」の違い

一方、所得税においても基本的には客観的事実に基づいて判定される点は共通しています。

所得税基本通達 2-1 住所の意義

法に規定する住所とは各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定する。

しかし、所得税には推定規定という者が存在します。推定規定とは法律や規則において、特定の条件がそろった場合に、その条件が満たされているとみなして扱うルールのことを指します。簡単に言うと、「この条件なら、こうだと考える」という基準をあらかじめ定めたものです。これが相続税・贈与税と所得税の「住所」の定義に大きな違いを生み出しています。

所得税法による推定規定によれば、以下のようなケースでは所得税の世界においては住所が自動的に推定されます。

  • 居住者と推定される場合: 「国内に継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合」
  • 非居住者と推定される場合: 「国外に継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合」

この規定によって、明確な基準があるため、場合によっては相続税・贈与税と所得税では異なる住所の判断がなされることがあります。このような違いがある理由は定かではありませんが、相続税や贈与税と所得税で「住所」の判断基準が異なる背景には、おそらく税収における優先順位の違いがあります。相続税や贈与税は国庫に占める割合が比較的小さいため、規定が所得税や法人税ほど詳細ではないとされています。その結果、相続税や贈与税は民法の概念を基に柔軟に判断し、所得税では推定規定を設けて効率的に判断する仕組みとなっています。このような違いが、同じ「住所」という言葉でも税法によって取り扱いが異なる状況を生み出していると考えられます。

このような税法間の住所の定義の違いから、海外移住をする場合、所得税では1年以上の国外滞在があれば非居住者と推定されますが、相続税では客観的事実に基づくため、異なる結果になる可能性があります。

相続税・贈与税 と所得税の「住所」の違いを表にまとめると、以下のようになります。

項目 相続税・贈与税 所得税
住所の定義の根拠 民法第22条を基に判断 所得税基本通達および推定規定による判断
住所の概念 「各人の生活の本拠」を「客観的事実」から判断し、その人の住所とされる 「客観的事実」に加え「推定規定」で住所を判定
判断方法 形式的な住民票の有無ではなく、実態に基づき客観的・総合的に判断 基本的には客観的事実に基づくが、推定規定によって自動的に居住者/非居住者とみなされる場合がある。
推定規定の有無 なし あり:「継続して1年以上居住を必要とする職業がある場合」などで居住者・非居住者を推定。
実務上の対応 生活の実態(家族構成、財産管理、日常生活の場所など)を重視して判断。 条件に該当する場合、推定規定を適用して住所を決定。
税法における詳細規定の量 比較的少ない。柔軟な判断が求められる。 詳細な規定が設けられ、効率的な判断が可能。

相続税・贈与税と所得税では、「住所」の定義や判断基準に違いがあるため、それぞれのルールを正しく理解しておくことが重要です。