Last Updated on 2025年1月22日 by 渋田貴正

香港の相続制度とは?

香港は、1997年7月1日に中国に返還されて、中国の一部となっています。ただし、「一国二制度」の下で、英国統治時代の法律を基礎とする法制度が現在も維持されています。もともと香港は1842年の南京条約で清朝から英国に割譲され、その後155年間、英国の植民地として統治されました。この期間中、英国法(コモン・ロー)を基盤とした法制度が香港に導入され、行政、司法、経済、教育などの基盤が整備されました。その結果、香港では英国式の資本主義制度が定着し、自由貿易や法の支配、独立した司法制度などが発展しました。この法制度が香港の繁栄の基盤となったため、中国への返還後もこの制度を維持することが求められており、1984年、英国と中国は香港返還に向けた「中英共同声明」を締結し、その中で香港返還後も「一国二制度」を採用し、中国本土とは異なる制度を香港で維持することが合意されました。

香港特別行政区基本法第5条は、「香港は社会主義制度を実施せず、資本主義制度を50年間維持する」と明記しています。また、第8条では、「英国植民地時代からの法律(普通法や慣習法など)は、基本法と矛盾しない限り継続して適用される」と規定されています。

このように、香港では中国本土とは異なる独自の相続制度が採用されており、コモン・ロー(英米法)の影響を強く受けています。

コモン・ローに基づく相続制度

コモン・ローを採用する香港では、「相続分割主義」が取られています。これは、相続財産の種類や所在場所に応じて異なる法律を適用するという考え方です。

具体的には、以下の通りです。

動産(現金や株式など) 被相続人の最終的な住所地の法律が適用される
不動産 その所在地の法律が適用される

たとえば、日本人が香港に動産を持っている場合は、日本の法律が適用されます。また、香港人が日本に不動産を持っている場合は、不動産の所在地である日本の法律が適用されます。

香港人の定義と相続の関係

コモン・ローが適用される香港人の定義については、香港特別行政区基本法第24条に明記されています。ここでは、永住権を持つ「永住民」と、それ以外の「非永住民」に分けられています。

区分 定義
永住民 香港特別行政区に永住権を持つ住民
1. 香港で生まれた中国公民
2. 香港に通常連続7年以上居住している中国公民
3. 永住民の子ども(香港以外で生まれた場合を含む)
4. 非中国籍で有効な旅行証明書を持ち、香港に通常連続7年以上居住し、香港を永住地としている者
5. 上記4の住民の子どもで、香港で生まれた満21歳未満の者
6. 香港特別行政区成立以前に香港だけに居留権を持っていた者
非永住民 永住権を持たないが、香港住民身分証明書を取得する資格を持つ者
– 香港特別行政区に短期滞在や就労目的で居住している外国籍者
– 永住民でないため、選挙権や公職就任権などの一部の権利が制限される

非永住民は香港住民証を持つことができますが、居留権はありません。相続手続においては、被相続人が永住民であるかどうかによって適用される法律や手続きが異なる場合があります。

香港で相続手続きを行う際の注意点

被相続人が日本に住所を有する場合

日本に住所を有する香港人がが香港に動産を持っている場合、日本法に基づき法定相続人を決定します。その後、香港のプロベート(遺言検認)手続を進める必要があります。この際、日本の法律に関する意見書を香港の裁判所に提出する必要があります。

被相続人が香港人で日本に不動産を有する場合

香港籍の被相続人が日本に不動産を持っている場合、不動産所在地法が適用されるため、日本の民法が適用されます。このように、動産と不動産で異なる法律が適用される点が注意点です。

香港のソリシターや公証人の役割

香港では「法律実務家条例」に基づき、法律の専門家として以下の役割が定められています。

ソリシター(Solicitor)

ソリシターは裁判所に所属し、宣誓供述書の作成や署名の認証を行う権限があります。相続手続においても重要な役割を果たします。

公証人(Notary Public)

公証人は文書の認証や宣誓手続き、遺言書の証明などを行います。特に国際相続においては、認証された書類が求められることが多く、公証人の役割は欠かせません。

香港においては、ソリシターも公証人も香港の法律(条例)で認証権を付与されており、いわゆる「本国官憲」に該当し、その認証は日本国内でも有効です。

香港の相続制度は、コモン・ローや相続分割主義に基づいており、日本や他国の制度とは異なる特徴を持っています。国際相続では、財産の種類や所在地に応じて適切な手続を進める必要があります。当事務所では、香港籍の方の相続手続きをサポートしています。お気軽にご相談ください。